ルーマニア正教会

ルーマニア正教会の概要

ルーマニア正教会（ルーマニア語: Biserica Ortodoxă Română）は、キリスト教の正教会に属する独立した教会組織です。かつてはコンスタンティノープル総主教庁の管轄下にありましたが、19世紀末に独立しました。ルーマニア国民の大多数が信者であり、正教会の中で信徒数ではロシア正教会に次ぐ規模を誇ります。正教会は原則として一国に一つの教会組織を持つものの、各教会は共通の教義を信奉しています。

歴史

起源とローマ帝国

ルーマニア正教会の起源については、聖アンデレによって創建されたという伝承があります。しかし、歴史的にはローマ帝国がキリスト教をルーマニアにもたらしたと考えられています。ローマの属州時代、ミトラ教など様々な宗教が信仰されましたが、キリスト教はイリュリア軍団によって広められました。ローマ軍が撤退した後も、ローマ文化は残り、ダキア人は言語、文化とともにキリスト教を受け入れました。ルーマニア語の基本的なキリスト教用語はラテン語に由来しており、これはこの地のキリスト教化がローマ時代に遡ることを示しています。

ルーマニア人が民族として形成されたとき、彼らは既にキリスト教徒でした。これは伝承だけでなく、考古学的、言語学的証拠によっても裏付けられています。教会の意味の「Biserica」は、ルーマニア正教に固有の言葉であり、ラテン語の「basilica」に由来します。また聖人の名前もラテン語の影響を受けています。ただし、キリスト教以前のダキア人の信仰も、霊的な場所としての山岳や宗教的な行列、暦などに痕跡を残しています。

小スキュティアにおけるキリスト教

ドブロジャ地方は、ローマ帝国の一部として比較的長くキリスト教の影響下にありました。伝承によれば、使徒アンデレが1世紀にこの地を訪れました。その後、キリスト教は小スキュティアで優勢となり、多くの初期教会の遺構が発見されています。ローマ帝国による迫害下で、多くのキリスト教徒が殉教しました。

304年には、主教エフレムがこの地域最初の殉教者となり、ディオクレティアヌス帝などの迫害下で多くの殉教者が出ました。1971年の発掘では、殉教者の遺体が発見され、殉教者の名が記された墓が発見されたことは、当時の信仰の強さを物語っています。311年にガレリウス帝が信仰の自由を布告すると、トミスは府主教座となりました。

中世

東ローマ帝国とブルガリア帝国の関係の中で、ルーマニアでは9世紀初めから教会スラヴ語による奉神礼が行われるようになりました。しかし、ルーマニア人聖職者の中には、スラヴ語を理解しない者や、信徒が奉神礼文を理解することを望む者がいました。ドナウ川南岸は「大ワラキア」、北岸は「ハンガリー・ワラキア」と呼ばれていました。1359年には「ウングロ・ワラキア」府主教座が、1401年にはモルダヴィア府主教座が設立されました。

聖書の翻訳

ドナウ川下流域では教会生活が発展しましたが、ルーマニア人を司牧する府主教座は13世紀末から14世紀初めに設立されました。16世紀までは教会スラヴ語が用いられていましたが、ルーマニア語への翻訳が徐々に進められ、17世紀末にはルーマニア語による聖書全巻の翻訳が登場しました。1688年にはワラキアでルーマニア語聖書が出版され、ルーマニア教会における教会スラヴ語とギリシア語の重要性は薄れていきました。1863年には、ルーマニア語がルーマニア正教会で唯一使用される言語となりました。

帰一教会

1698年、トランシルヴァニアのルーマニア正教会の一部がローマ教皇の至上権を認めました。ただし、東方典礼を保持し続けました。一部の歴史家はこれを政治的な動きと見ています。第二次世界大戦後、ルーマニア共産党政権は東方典礼カトリック教会を弾圧しましたが、2002年時点では19万1千人の信者が存在します。

近現代の歴史

1885年、ルーマニア正教会は自治教会から独立教会となり、コンスタンティノープル総主教座の支配から完全に離脱しました。

共産党政権下では、教会は国の統制下に置かれ、多くの修道院が閉鎖されました。ルーマニア正教会の指導部は政権に協力する一方で、多くの聖職者が教会を離れました。1989年のルーマニア革命により、教会に対する国家の統制は廃止されました。

モルドバのルーマニア正教会

モルドバ共和国のルーマニア人信徒は、ベッサラビア府主教区に属しています。ベッサラビア府主教区は、ロシア帝国による併合以来、ロシアへの同化政策に抵抗しており、2004年現在200万の信徒を持っています。2001年、欧州人権裁判所は、ベッサラビア教会をモルドバ府主教座の正統な後継者と認めました。

日本のルーマニア正教会

2000年代、日本に居住するルーマニア人女性の増加に伴い、在日ルーマニア正教会信徒が増加し、2008年にルーマニア総主教座は日本支部を設立しました。ただし、この設置は日本正教会との協議なしに行われたため、紛争が生じています。

ルーマニア正教会の特徴

ルーマニア正教会は、正教会の中で唯一ロマンス語による奉神礼を行う教会です。また、東ローマ帝国の宗教文書には、独自の地方主教座が記録されています。ルーマニア語では、教会の意味でバシリカに由来する「Biserică」が一般的です。

教会法上の地位

ルーマニア正教会はルーマニア総主教府によって管轄され、聖職位階、教会法、教義の最終的な権威は聖シノドにあります。

組織

ルーマニア国内には5つの府主教座と10の大主教座があり、1万2千人以上の聖職者が活動しています。約400の修道院があり、約8500人の修道士・修道女がいます。国外には3つの在外府主教座と2つの在外主教座があります。国内には15の神学大学があり、1万人以上の学生が学んでいます。また、ルーマニア正教会所属の教会は14500を超えます。

他の正教会との関係

ルーマニア正教会を含む多くの正教会は、コンスタンティノープル総主教を尊重しています。しかし、2008年には日本正教会との合意なしに日本支部を設置し、紛争が生じています。

著名な神学者

ドゥミトル・スタニロアエ司祭は20世紀の偉大な神学者の一人です。また、クレオパ・イリエ司祭は現代ルーマニア正教会の精神性を代表する人物です。

ルーマニア総主教

歴代のルーマニア総主教には、ミロン、ニコディム、ユスティアン、ユスティン、テオクティスト、そして現在のダニエルがいます。

その他の情報

ルーマニア正教会は、独自の歴史と文化を持つ教会であり、ルーマニアの社会において重要な役割を果たしています。日本においては、在日ルーマニア人信徒の増加とともに、その存在が認知されるようになってきています。

分類

ルーマニア正教会は、正教会の独立教会に分類され、他の正教会と同様に共通の教義を信奉しています。独立教会、自治教会などの分類については、他の正教会のリストを参照してください。

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