レアルコス

古代ギリシア神話に登場するレアルコス（古希: Λέαρχος, Learchos）は、ボイオーティア地方に位置する都市、オルコメノスの王アタマースと、カドモスの娘であるイーノーとの間に生まれた長子です。彼には弟のメリケルテースがいました。レアルコスの名は、主にその生涯が父であるアタマースの手によって悲劇的な結末を迎えたという神話の記述を通じて伝えられています。

レアルコスの父アタマースが狂気に囚われた原因としては、一般に、神々の女王ヘーラーの怒りを買ったためとされています。これは、アタマースとイーノーが、ゼウスとセメレーの子であり、後に葡萄酒と狂乱の神となるディオニューソスを幼少期に養育したことに対する、ヘーラーからの報復であったと説明されます。この狂気によって正気を失ったアタマースは、自身の息子であるレアルコスを殺害するに至りますが、その具体的な描写については、古代の著述家によって複数の異なる伝承が伝えられています。

例えば、ギリシア神話を集大成したアポロドーロスによれば、狂気に駆られたアタマースは、レアルコスをシカと見間違え、弓矢で射殺してしまったと記録されています。これに対して、ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』では、より劇的な情景が描かれています。アタマースはイーノーと子供たちを雌ライオンとその仔と思い込み、追い回します。イーノーは息子たちを抱いて懸命に逃げますが、アタマースはイーノーの腕からレアルコスを引き剥がし、無慈悲にも岩に叩きつけて殺害したとされています。この凄惨な光景を目の当たりにしたイーノーもまた、狂気に囚われ、弟であるメリケルテースを抱きかかえたまま、崖から海へと身を投げたと伝えられています。ただし、同じオウィディウスの著作である『祭暦』では、イーノーは夫によって殺害されたレアルコスの遺体を埋葬した後、メリケルテースとともに海に飛び込んだという、やや異なる経緯が語られています。

また、旅行家であり地理学者であったパウサニアスは、レアルコスの死について別の見解を示しています。彼によれば、アタマースは狂気に憑りつかれたのではなく、前妻ネペレーの子どもたちを殺害しようとした後妻イーノーに対する激しい怒りから、報復として彼女とその間に生まれた子どもたち、すなわちレアルコスを殺害しようとしたのだと述べています。これは、アタマースの行動を狂気によるものではなく、より人間的な感情、つまり怒りと憎悪に起因するものとして解釈するものです。さらに、悲劇詩人エウリーピデースは、自身の作品『メーデイア』の中で、イーノーがヘーラーによって送られた狂気のために、自らの手で二人の子どもたちを殺害したという筋書きに触れていますが、ここで殺された子どもの名前は具体的に挙げられていません。しかし、イーノーの子として知られるのはレアルコスとメリケルテースであることから、この記述もレアルコスの悲劇的な死に関連するものと考えられます。

このように、レアルコスの最期は、父の狂気、あるいは怒り、あるいは母の狂気など、様々な原因によって引き起こされたものとして、複数の神話伝承の中で描かれています。いずれの伝承においても、彼は幼くして命を落とすという、オルコメノス王家の悲劇の一幕を担う人物として語り継がれています。

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