レイモン・デュシャン＝ヴィヨン

レイモン・デュシャン＝ヴィヨン（Raymond Duchamp-Villon、本名：ピエール＝モーリス＝レイモン・デュシャン、1876年11月5日 - 1918年10月9日）は、フランスの彫刻家であり、20世紀初頭の芸術界に大きな足跡を残しました。

生い立ちと家族

彼はウール県のダムヴィルで、裕福な公証人の息子として生まれました。母親は画家ニコル（Émile Frédéric Nicolle)の娘であり、芸術的な環境で育ちました。また、兄に画家・版画家のジャック・ヴィヨン（本名：ガストン・エミール・デュシャン）、弟にダダイスムの画家マルセル・デュシャン、妹にダダイストのシュザンヌ・デュシャンという、芸術一家の一員でした。

彼は兄のジャック・ヴィヨンのペンネーム「ヴィヨン」と自身の姓「デュシャン」を組み合わせ、「デュシャン＝ヴィヨン」というペンネームを使用しました。

医学から彫刻への転身

1894年から1898年まで、彼は兄ジャックとともにパリに出てモンマルトルに居住し、1895年からソルボンヌ大学で医学を学び始めました。しかし、1898年に病気のため医学の勉強を断念せざるを得なくなりました。その後、医学の道から彫刻家への道へと進むことを決意し、1900年から彫刻家としての修行を始めました。

芸術活動と影響

彼はアール・ヌーヴォーや新古典主義の彫刻作品を研究し、アリスティド・マイヨールやウンベルト・ボッチョーニといった芸術家からも影響を受けました。1902年と1903年にはフランス国民美術協会の展覧会に出展し、この頃から「デュシャン＝ヴィヨン」のペンネームを使用するようになりました。

1905年には兄とともにサロン・ドートンヌに出展し、ルーアンで個展を開催するなど、彫刻家としての評価を高めました。1907年にはサロン・ドートンヌの彫刻部門の審査員に選出されています。

キュビスムとの関わり

1911年、彼はキュビスムを志向するグループ「ピュトー・グループ」の主要メンバーとなり、1912年には「Salon de la Section d'Or」を開催しました。1913年にはアメリカで開催されたアーモリーショーに、兄弟とともに主要な出展者として参加しました。

第一次世界大戦と晩年

第一次世界大戦が勃発すると、彼は志願してフランス軍の病院で勤務しました。この間、代表作となる「馬」の制作に取り組みました。1916年の冬にはシャンパーニュに駐在中に腸チフスに罹患し、カンヌの軍病院に入院しましたが、1918年10月9日にカンヌでその生涯を閉じました。

作品と評価

彼の作品は、アール・ヌーヴォーやキュビスムの影響を受けつつも、独自の造形感覚と力強い表現が特徴です。特に「馬」は、機械的な要素と生物的な躍動感を融合させた作品として知られ、彼の芸術性を象徴する代表作とされています。

レイモン・デュシャン＝ヴィヨンの作品は、20世紀初頭の彫刻界において重要な位置を占めており、その革新的なアプローチは後の芸術家たちに大きな影響を与えました。

参考文献

Reinhold Hohl: Skulptur im 20. Jahrhundert. Ausstellung im Wenkenpark, Riehen/Basel. 10. Mai bis 14. September 1980. Werner, Basel 1980, ISBN 3-85979-011-0
Walter Pach: Queer Thing, Painting, 1938. Tomlin Press 2007, ISBN 978-1-40674-796-6

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