レウコーン

レウコーン（古希: Λεύκων）は、古代ギリシアの神話に名を連ねる人物であり、ボイオーティア地方に位置するオルコメノスという都市の王であったアタマースと、彼の妻テミストーの間に生まれた子供の一人として知られています。彼の名は、長母音を省略してレウコンと表記されることもあります。

系譜

レウコーンには複数の兄弟がいました。父アタマースと母テミストーの子としては、エウリュトリオス、スコイネウス、そしてプトーオスが彼の兄弟にあたります。また、レウコーン自身も家庭を築き、エリュトラース、エウヒッペー、そしてペイシディケーという子供たちをもうけました。

神話と伝承

レウコーンの誕生に至るまでの父アタマースの道のりは、古代の伝承によって語られています。アポロドーロスによれば、アタマースは最初の妻イーノーとその二人の息子、レアルコスとメリケルテースとの間に起こった悲劇的な出来事の後、故郷であるボイオーティア地方を追放されるという運命をたどりました。彼は神託の導きに従って各地を放浪し、ある場所で狼が羊を食い散らかした後に残していったのを見つけました。彼はそこを神託が示した新たな定住地と考え、そこに住み着きました。この地でアタマースはテミストーと出会い、彼女を妻として迎え入れました。そして、二人の間にはレウコーンをはじめとする数人の子供たちが生まれたとされています。

レウコーンの名は、単に王家の血筋を引く者としてだけでなく、歴史的な文脈においても言及されています。特に、ボイオーティアとアッティケー地方の境界近くに位置する重要な町、プラタイアイの発展において、彼は特筆すべき役割を果たした英雄の一人として数えられています。古代の著述家プルタルコスは、プラタイアイの町の興隆に深く関わったとされる七人の英雄の中に、レウコーンの名前を挙げています。これらの英雄たちは、プラタイアイの町の基盤を築き、あるいはその発展に貢献した伝説的人物であったと考えられています。

後世、歴史的な大事件であるペルシア戦争において、プラタイアイの町は再びレウコーンの名と結びつきます。紀元前479年に繰り広げられたプラタイアイの戦いでは、数で勝るペルシア軍に対し、スパルタを中心としたギリシア連合軍が歴史的な勝利を収めました。この戦いに臨むにあたり、ギリシア軍は勝利を祈願するため、デルポイの神託に従って様々な神々に誓いを立てると同時に、プラタイアイの地ゆかりの七人の英雄たちにも特別な供儀（犠牲）を捧げたと伝えられています。その七人の中には、プラタイアイの興隆に関わった英雄としてレウコーンの名も含まれており、彼の存在が戦場の士気を高め、神々の加護を得るために重要視されたことがうかがえます。これは、神話上の人物が歴史的な出来事と結びつけられ、人々の信仰や戦略に影響を与えた例として興味深いものです。

子孫たちの運命

レウコーンには複数の子供たちがいました。そのうち、息子のエリュトラースは特に知られた存在です。彼はプラタイアイ近郊に位置するエリュトライという町の創建者として名を残しています。しかし、その生涯は悲劇的な結末を迎えました。彼は、ペロポネソス半島に勢力を持っていたピサの王オイノマオスが主催した戦車競走に参加しましたが、オイノマオスは娘ヒッポダメイアとの結婚を賭けたこの競争において、挑戦者を次々と打ち破り殺害していました。エリュトラースもまた、この過酷な競争に敗れ、オイノマオスによって命を奪われてしまったのです。

また、エリュトラースには複数の娘たちがおり、彼女たちは神話の中で重要な役割を果たしています。特に、レウコーンの父アタマースの最初の妻であり、狂乱の末に悲劇的な死を遂げたイーノー亡き後、彼女たちは幼いディオニューソス神を養育したと伝えられています。これはディオニューソスの神話における重要なエピソードの一つであり、彼女たちの名が神々の物語の中に刻まれることとなりました。エリュトラースの娘たちのうち、一人のエウヒッペーは、伝説的な人物であるアンドレウスと結婚し、テバイの創建者の一人とされるエテオクレースを生んだとされています。このように、レウコーンの系譜は、ボイオーティア地方の王家から、プラタイアイという歴史的な町、そしてディオニューソス神の養育に関わる神話、さらにはテバイの創建に関わる人物まで、広範な伝承と結びついています。

レウコーン自身の生涯に関する詳細は断片的な情報しか残されていませんが、彼の出自であるボイオーティアの王家、プラタイアイの町の英雄伝承、そして歴史的な大事件であるプラタイアイの戦いにおける役割、さらには子孫を通じて繋がる神話的なエピソードなど、様々な側面からその名が語り継がれています。彼は神話と歴史の両面において、その存在が記憶されている重要な人物であると言えるでしょう。

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