レオニー・リザネク

オーストリア出身の著名なドラマティック・ソプラノ歌手、レオニー・リザネク（本名レオポルディーネ・リザネク＝ガウスマン、1926年 11月14日 - 1998年 3月7日）は、その力強い歌声と圧倒的な演技力で、20世紀後半のオペラ界に輝かしい足跡を残しました。姓は出身地ウィーンの方言に基づき「リサネク」と表記されることもあり、英語圏では「ライザネック」と呼ばれました。

生涯と初期キャリア

ウィーンで生まれたリザネクは、若い頃から声楽の才能を示し、1946年からオルテアン・フォン・ラドニーに師事した後、1947年には奨学金を得てウィーン音楽院でアルフレート・イェルガーとルドルフ・グロスマンに学びました。姉のロッテも同じ音楽院で学び、後にソプラノ歌手となりました。しかし、1949年6月にインスブルックのティロル州立劇場でウェーバーのオペラ『魔弾の射手』のアガーテ役でデビューを飾ったことが音楽院の方針に反したため、彼女は退学処分を受けます。その後、音楽院時代の師であるルドルフ・グロスマンに個人レッスンを継続して受け、後に彼と結婚しました。

1950年にはグラーツやウィーン・フォルクスオーパーなどで客演を重ね、同年から1952年までザールブリュッケン歌劇場に所属しました。ここで彼女は後のキャリアにおける大きな転機となる人物、ヴィーラント・ワーグナーの目に留まります。

バイロイトでの鮮烈なデビュー

1951年、バイロイト音楽祭再開にあたり、ヴィーラント・ワーグナーはリザネクをワーグナーの楽劇『ワルキューレ』のジークリンデ役に抜擢しました。ヴィーラントは、彼女の独特で若々しい声質と、類稀な演技力が相まって、センセーションを巻き起こすと確信していたのです。結果は彼の予想通り、リザネクはバイロイトの舞台で絶賛され、一夜にして国際的なスターダムへと駆け上がりました。ジークリンデ役は、彼女の長い歌手人生を通じて最も成功した役の一つとなりました。

世界的な活躍

バイロイトでの成功後、リザネクは世界の主要な歌劇場から次々と招かれるようになります。1952年にはミュンヘンのバイエルン国立歌劇場に入団し、1954年まで在籍。ここではリヒャルト・シュトラウス作品の主要なソプラノ役、特に『エジプトのヘレナ』、『影のない女』皇后、『エレクトラ』クリュソテミスなどでその力強い高音域とドラマティックな存在感を発揮し、理想的な演奏者としての地位を確立しました。また、ヴェルディ作品やプッチーニ作品など、幅広いレパートリーを歌いました。

1953年にはロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス（コヴェント・ガーデン）に初登場し、『ダナエの愛』ダナエ役で大きな衝撃を与えました。その後もクリュソテミス、ジークリンデ、トスカ、エルザ、元帥夫人などの役で定期的に出演しました。1954年にはミラノ・スカラ座にもクリュソテミス役でデビューしています。

ウィーン国立歌劇場には1954年に『さまよえるオランダ人』ゼンタ役で客演デビューし、1955年には正式に入団。以来、1991年まで長期にわたりウィーンの聴衆を魅了し続けました。

北米へのデビューは1956年、サンフランシスコ・オペラでのゼンタ役でした。そして、1959年にはニューヨークのメトロポリタン・オペラ（メト）に衝撃的な形でデビューします。公演から降板したマリア・カラスの代役として『マクベス』のマクベス夫人を歌い、瞬く間にニューヨークの聴衆から熱狂的な喝采を浴びました。以降、リザネクはウィーンとメトを活動の中心とし、ゲスト出演として他の劇場にも登場するスタイルを確立しました。メトでは生涯で24役、299回の公演に出演し、『影のない女』皇后、『ナクソス島のアリアドネ』タイトルロール、ヤナーチェク『カーチャ・カバノヴァー』主役、ヴェルディ『ナブッコ』アビガイッレなどを歌いました。1996年1月、『スペードの女王』伯爵夫人役でメトの舞台に別れを告げました。

声とレパートリー

リザネクの声は、スピント・ソプラノとドラマティック・ソプラノの中間を占めるものでした。ドイツオペラでは若々しいドラマティック・ソプラノ（jugendlich-dramatisch）の最上級からドラマティック・ソプラノの領域に、イタリアオペラではもっぱらドラマティック・ソプラノとして位置づけられました。特に五線譜を遥かに超える高音域での輝きと持久力は伝説的で、20世紀でも最も華々しい音色の持ち主の一人として知られています。

彼女は特にリヒャルト・シュトラウスの音楽に類稀な適性を示し、『影のない女』皇后、『サロメ』、『ばらの騎士』元帥夫人、『エレクトラ』クリュソテミスといった役で絶大な評価を得ました。ワーグナー作品ではジークリンデが当たり役でしたが、より重いイゾルデやブリュンヒルデといった役は、声帯への負担を考慮した師の助言や、同時代の名歌手への敬意から避けたと言われています。一方で、ヴェルディ作品にも優れ、『マクベス』マクベス夫人、『オテロ』デズデモナ、『アイーダ』タイトルロールなど、数多くのドラマティックなヒロインを歌いこなしました。キャリアの後半には、『サロメ』ヘロディアスや『エレクトラ』クリュテムネストラといったメゾソプラノの役にも挑戦し、新たな境地を開きました。

晩年と遺産

歌手活動を引退後、リザネクはウィーンフェスティバルの総監督に就任するなど、音楽界への貢献を続けました。しかし、メトでの最後の公演の頃に骨癌と診断され、1998年 3月7日にウィーンで71年の生涯を閉じました。その死後、メトでは彼女がオルトルート役で出演したことのあるワーグナー『ローエングリン』の公演が彼女に捧げられました。

その功績を称え、リザネクはウィーン中央墓地に名誉の墓に埋葬されています。また、2014年にはウィーン市ドナウシュタット区に「レオニー・リサネク通り」が命名され、その名前は今なおオーストリアの音楽史に深く刻まれています。彼女の芸術は、数多くの優れた録音によって今も世界中のオペラファンに聴き継がれています。指揮者のジェームズ・レヴァインは、彼女の内面に常に燃える炎と、類稀な激しさ、そして回復力と広い声域を兼ね備えた声への驚嘆を語っています。

家族

レオニー・リザネクは二度結婚しています。
1950年：声楽家で演出家のルドルフ・グロスマンと結婚。
1968年：音楽学者でジャーナリストのエルンスト・ルートヴィヒ・ガウスマンと再婚。

姉のシャルロッテ・リザネク＝デーラー（ロッテ・リザネク、1924年 - 2016年）も著名なソプラノ歌手として知られています。

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