イダ・ルビンシュタイン

イダ・リヴォヴナ・ルビンシュタインは、1885年にロシアで生まれ、1960年にフランスで亡くなったバレリーナ、女優です。彼女は、そのエキゾチックな美貌と舞台上での際立った存在感で、多くの人々を魅了しました。

生涯

裕福なユダヤ人家庭に生まれたイダは、幼くして両親を亡くし、孤児となりました。20歳を過ぎてからミハイル・フォーキンに師事するまで、本格的なバレエの訓練はほとんど受けていませんでした。そのため、バレリーナとしての技術は一流とはみなされていませんでしたが、舞台での独特の雰囲気と演技力は、観客を惹きつけました。

1908年、イダはペテルブルクでオスカー・ワイルドの『サロメ』をパントマイム形式で上演し、デビューしました。この舞台で、彼女は「7つのヴェールの踊り」において一糸まとわぬ姿を披露し、物議を醸しました。この『サロメ』での活躍がきっかけで、振付を担当したフォーキンと美術を担当したレオン・バクストの推薦により、パリのバレエ・リュスに参加することになります。

1909年、バレエ・リュスのシャトレ座公演で、『クレオパトラ』の主役クレオパトラを演じ、翌1910年にはパリ・オペラ座公演で『シェヘラザード』のスルタンの寵妃ゾベイダ役を演じました。これらの役は踊りが少ないパントマイムに近いものでしたが、イダの存在感は観客に強烈な印象を与え、ジャン・コクトーやマルセル・プルーストといった著名人を含む多くの人々が、彼女の美を称賛しました。

1911年、イダはバレエ・リュスを離れ、自身のカンパニーを設立しました。同年、シャトレ座で上演した『聖セバスティアンの殉教』は、イタリアの詩人ダンヌンツィオが彼女のために書き下ろした作品で、音楽をクロード・ドビュッシー、美術をバクストが担当しました。しかし、ユダヤ人女性が聖セバスチャンを演じたことがパリの大司教の怒りを買い、カトリック信徒への観劇禁止令が出されるなど、スキャンダルとなりました。

その後、イダはブロニスラヴァ・ニジンスカやアレクサンドル・ブノワなど、バレエ・リュスの関係者を引き抜き、独自のバレエ団を結成しました。1928年、パリ・オペラ座での旗揚げ公演では、イゴール・ストラヴィンスキーの『妖精の接吻』やモーリス・ラヴェルの『ボレロ』などが初演されました。イダは豊富な資金力を活かし、オペラ座を連日満席にし、バレエ・リュスを脅かすほどの存在となりました。

イダのカンパニーは、無料のバレエ上演会をしばしば開催し、第二次世界大戦が勃発する1939年まで断続的に活動を続けました。その後、彼女は舞台から姿を消し、1960年にひっそりとこの世を去りました。

芸術家としての側面

イダは、芸術家のパトロンとしても重要な役割を果たしました。彼女は、自身のダンサーとしての技術的な弱点を補うため、踊り、演劇、劇作法を組み合わせた独自の舞台作品を芸術家たちに発注しました。これらの作品には、ジャック・イベールのバレエ『ポワチエのディアナ』、アルテュール・オネゲルのバレエ『アンフィオン』、ポール・クローデルの台本とオネゲルの音楽による劇的オラトリオ『火刑台上のジャンヌ・ダルク』などがあります。

美術におけるイダ

イダの美貌は、美術の世界でも高く評価されました。キース・ヴァン・ドンゲンは、バレエ・リュスでの『クレオパトラ』のフィナーレにインスピレーションを得て、『1909年シーズンのロシア・オペラの思い出』を描きました。また、ヴァレンティン・セローフによる彼女の肖像画（1910年作）は、その円熟した美しさを捉えています。イダは、アールデコの彫刻家デメートル・シパリュスによる小立像や、アントニオ・デ・ラ・ガンダラによる肖像画のモデルにもなりました。

両性愛者であったイダは、1911年から3年間、画家ロメイン・ブルックスと恋愛関係にありました。ブルックスもまた、イダをモデルにした印象的な肖像画を数多く残しており、その中でも特に有名なのは『悲しめるウェヌス』です。

イダ・ルビンシュタインは、その生涯を通じて、バレリーナ、女優、そして芸術のパトロンとして、多大な影響を与えた人物です。彼女の独特な存在感と美貌は、今もなお、多くの人々を魅了し続けています。

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