レクサス・IS F

レクサス IS F：スポーツセダンの頂点

レクサスIS Fは、トヨタ自動車が展開する高級車ブランド「レクサス」から販売されたスポーツセダンです。レクサスの中型FRセダン「IS」をベースに、徹底的に走行性能を鍛え上げたモデルで、「F」の称号を冠した初のモデルとして注目を集めました。この「F」は、トヨタF1の拠点である富士スピードウェイと開発拠点である東富士研究所に由来します。トヨタ自動車全体としても、大排気量の本格派スポーツモデルとしては2002年まで生産されていた「トヨタ・スープラ」以来、ハイパフォーマンス・スポーツセダンとしては「トヨタ・アリスト」以来のモデルとなりました。

開発コンセプトと発表

「基本性能を徹底的に鍛え込むとともに、走りの新技術を備えることによりレクサスの新しいパフォーマンスを提案する」というコンセプトのもと開発されたIS Fは、2007年10月4日に富士スピードウェイで正式発表されました。発表会には、当時トヨタ自動車代表取締役副社長であった豊田章男氏（後の社長）も出席し、自らIS Fを運転してその高いパフォーマンスを披露しました。その後、同年12月25日に日本国内で販売が開始され、北米、ヨーロッパ、オセアニアへと展開、2011年モデルからは韓国、台湾、中東でも販売されました。

エクステリア：空力と冷却性能の追求

IS Fのエクステリアは、ベースとなるISセダンから大幅に手が加えられています。300km/hオーバーでも安定した走行を実現するため、空力チューニングが徹底的に施されました。ヘッドライト、前後ドア、トランク、ルーフパネル以外はほぼ全てが新設計され、特にフロント周りは大型V8エンジンを搭載するためにオーバーハングが延長され、ボンネットもエンジンヘッドとの干渉を防ぐために盛り上げられています。さらに、エンジン冷却性能向上のため、フロントフェンダーパネルにはスリットが設けられました。

リアにはIS F専用設計のリアスポイラーとアンダーパネルに加え、レクサスのスーパーカー「LFA」をイメージした4本出しリアディフューザーが装備され、強力なダウンフォースを生み出し、超高速走行時の直進安定性を高めると同時に、スポーティなエキゾーストノートを奏でます。

インテリア：機能性とスポーツ性能の両立

インテリアは、ベースのISから大きく変更された箇所はありませんが、サーキット走行にも対応するため、座面が10mm下げられ、サイドサポートが大きく張り出したIS F専用スポーツシートが前後に装備されています。これにより、乗車定員は4名となりました。また、専用素材を使用したセンターコンソールパネル、Fエンブレム入りのステアリングホイール、IS F専用の300km/hフルスケールメーターなど、ベース車との差別化が図られています。

パワートレーン：ヤマハとの共同開発による専用ユニット

エンジンには、レクサスのフラグシップモデル「LS600h」に搭載されるV型8気筒・2UR-FSE型エンジンをベースに、トヨタ自動車とヤマハ発動機が共同開発した専用スポーツユニット「2UR-GSE」型エンジンが搭載されています。エンジン型式名にスポーツ向けの仕様を示す記号「G」を冠するのは、7代目「セリカ」に搭載された2ZZ-GE型以来であり、V型および8気筒以上の大排気量エンジンとしては初の採用となりました。

このエンジンは、筒内直接噴射とポート噴射を組み合わせた「D-4S」を採用し、スポーツ走行に対応するため、通常のオイルラインに加え、各バンクのシリンダーヘッド両端から強制的にオイルを回収するスカベンジポンプを採用しています。これにより、高い旋回Gが生じた際のオイル戻りを改善し、安定した油圧を確保しています。吸気バルブにはチタンバルブを採用し、カムジャーナルをボアセンターに、ロッカーアームのラッシュアジャスターから固定ピボットとするなど、高回転域を多用するスポーツ走行を重視した設計となっています。専用設計の吸気系統は、レスポンスと高回転時の吸気効率を向上させ、鋭い吹け上がりとエンジンサウンドを実現しています。

最高出力は311kW（423PS）/6600rpm、最大トルクは505N·m（51.5kg·m）/5200rpmを発生し、0-100km/h加速は5.1秒、最高速度は305km/h（日本国内向けは180km/h、海外向けは270km/hでリミッター作動）を誇ります。

トランスミッションには、「LS460」や「GS430」に搭載される8速ATをベースに、IS F専用セッティングを施した「8-Speed SPDS」が採用されています。全てのギア段でロックアップ機構が働き、ダイレクトなシフトフィールを実現。シフトダウン時にはブリッピングコントロールが作動し、シフトチェンジのタイムラグはわずか0.1秒と、世界トップクラスの変速スピードを誇ります。

足回り：ブレンボとの共同開発ブレーキ

足回りには、イタリアのブレーキシステムメーカー「ブレンボ」と共同開発した、放熱効果の高いスパイラルフィン式大径ドリルドローター、対向6ポットのアルミモノブロックキャリパー（フロント）、対向2ポットのアルミモノブロックキャリパー（リア）が採用されています。これにより、強力なエンジン出力に対応し、サーキットでの連続周回でもフェードしにくいブレーキ性能を実現しています。

ホイールは、トヨタF1のパートナーでもあるBBSと共同開発した19インチ軽量鍛造アルミホイールを採用。フィンタイプのデザインは、ブレーキの排熱を効率的に排出できるよう左右で回転方向が指定されており、前後異幅であることから、4本全てが専用品となっています。

2010年モデルからは、トラクション性能を向上させるトルセンLSDが新たに採用されました。

歴史：IS430プロジェクトから誕生

IS Fの開発は、レクサスがブランドの新たな方向性を模索する中で始まりました。コンパクトセダン「IS」をベースとしたハイパフォーマンスカーとして、「IS300」に「GS430」のV8エンジンと「スープラ」のゲトラグ製6速MTを搭載する「IS430プロジェクト」がスタートしました。

このプロジェクトでは、レーシングドライバーのロッド・ミレンが中心となり、外観デザインはチップ・フースが、技術面はXSエンジニアリングが担当。IS430は、北米の主要な自動車イベントで展示され、一部のジャーナリストやレーシングドライバーにも試乗の機会が与えられました。

同時に、ヨーロッパでも同様のコンセプトで製作された試験車両がニュルブルクリンクなどでテスト走行を行いました。初代ISの生産終了までIS430は市販化されませんでしたが、このプロジェクトと初代ISにV8エンジンを搭載した先行開発車両が、後のIS Fへと繋がりました。

年表

2007年1月：第91回北米国際オートショーで量産型プロトタイプ「IS-F」発表。
2007年10月4日：市販モデル発表。
2007年12月25日：発売開始。
2009年7月：2010年モデル発表。トルセンLSD採用。
2010年8月：2011年モデル発表。ヘッドランプにLEDポジショニングランプ採用。
2013年9月5日：一部改良。カーボン製リアスポイラー採用、特別仕様車「Dynamic Sport Tuning」発売。
2014年5月18日：日本国内での販売を終了。

モータースポーツ

IS Fはモータースポーツへの参戦も視野に入れて開発され、2008年には東京オートサロンにDTM仕様の「IS Fレーシングコンセプト」が出品されました。

関連情報

トヨタ自動車
レクサス
レクサス・IS
レクサス・F
レクサス・RC F
レクサス・GS F

外部リンク

LEXUS > IS F（日本）
* Lexus IS F（英語）

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