レクトとヴェルソ

レクトとヴェルソ：書籍における表と裏の表現

レクト（recto）とヴェルソ（verso）は、書籍や写本などの見開きページにおいて、左右のページを区別するために用いられる用語です。これらの言葉は、単に位置を示すだけでなく、書物の歴史や文化、制作過程における様々な意味合いを含んでいます。

レクトとヴェルソの定義

コデックス（冊子写本）、書籍、ブロードシート、パンフレットなど、紙葉を束ねたものにおいて、レクトは右ページまたは表側を指し、ヴェルソは左ページまたは裏側を指します。これは、左から右へ書き進む横書きを前提とした場合の定義です。両面印刷された紙葉には、表と裏の2つのページが存在します。

現代の書籍では、複数枚の紙を重ねて半分に折ることで、1枚の紙から2葉の紙葉、4つのページが作られます。例えば、16ページの冊子の場合、一番外側の紙には1ページ目（レクト）と2ページ目（ヴェルソ）、15ページ目（レクト）と16ページ目（ヴェルソ）が配置されます。この際、1ページ目と16ページ目は同じ紙面に印刷され、異なる紙葉のレクトとヴェルソが並ぶことになります。

このような製本方法では、総ページ数は4の倍数、紙葉の数は2の倍数となります。未使用のページにはページ番号は振られず、カウントされません。この方法で折られた紙の束はフォリオと呼ばれ、同様の方法で製本された書籍やパンフレットもフォリオと称されます。

ルーズリーフのように束ねられていない紙葉の場合、片面のみ印刷されたり、無地のまま残された紙葉には、ページ番号の代わりに「l.」という略記号が用いられることがあります。

語源

レクトとヴェルソは、それぞれ「紙葉の右側」と「紙葉の裏側」を意味するラテン語「recto folio（レクト・フォリオ）」と「verso folio（ヴェルソ・フォリオ）」の略です。ラテン語では、1葉の紙葉の表裏を「folium rectum（フォリウム・レクトゥム）」、「folium versum（フォリウム・ウェルスム）」と呼びます。略語の「recto」、「verso」は、物理的なページだけでなく、そこに記されたテキストを指す場合にも用いられます。

用例

写本学においては、写本を構成する個々の紙を「folium（フォリウム）」と呼び、「fol.」または「f.」と略記します。各フォリウムには番号が振られ、その表裏はそれぞれ「folium rectum」、「folium versum」と呼ばれ、「r」、「v」と略記されます。したがって、写本におけるテキストの位置は「fol. 1r」のように示されます。時には「r」や「v」を上付き文字で表記したり、「1ro」のように序数標識を用いることもあります。これらの用語法は、17世紀以降に標準化されました。

マーティン・ライオンズは、「rectum」が「正しい」「正確な」「適切な」という意味も持つことに着目し、その起源を古代末期のパピルスの使用に由来すると唱えました。パピルスは表裏で質感が異なり、通常は滑らかな表面のみが書記に用いられたためです。

レクトとヴェルソは、シリア文字、アラビア文字、ヘブライ文字などの右横書き言語にも用いられます。ただし、これらの言語ではヨーロッパのコデックスとは逆向きに記述されるため、「レクト」が左ページ、「ヴェルソ」が右ページとなります。フォリオを読む順番は、書き方向に関わらず、ヴェルソから始まり、レクトへと続きます。

印刷用語としての「レクト＝ヴェルソ」は、書籍印刷の標準です。これは、アジアの木版印刷が片面印刷しかできなかったのに対し、印刷機が両面印刷を可能にしたことによる優位性を示しています。レクトとヴェルソの区別は、学術書や対訳書において特に重要です。

美術作品、特に素描においても、紙の表裏を「レクト」、「ヴェルソ」と呼びます。レクト・ヴェルソ・ドローイングは、スケッチブックのように表裏の区別がない紙に描かれた素描を指し、意図的に両面を活用した作品も存在します。かつて紙は高価であったため、両面を使用することは一般的でした。

出版の慣例では、本の最初のページや各章の最初のページはレクト・ページに配置されます。そのため、レクト・ページは常に奇数ページとなり、ヴェルソ・ページは偶数ページとなります。

初期の印刷本（インキュナブラ）や16世紀以降の一部の書籍では、ページではなく紙葉（フォリア）に番号が振られました。この場合、各フォリウムのレクト側に番号が記され、ヴェルソ側には番号がありませんでした。同様の習慣は、両面印刷プリンターが普及する以前の企業内文書などでも見られました。

レクトとヴェルソは、書籍という文化遺産を理解するための重要な概念です。これらの言葉を知ることで、書物の構造や歴史、そして製作者の意図をより深く理解することができるでしょう。

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