シリア文字

シリア文字：古代から現代まで続く中東の文字体系

シリア文字は、シリア語で使用される22文字のアブジャド文字です。アブジャドとは、子音文字のみで構成され、母音は明示的に表記されない文字体系です。アラビア[[文字]]やヘブライ[[文字]]と同様に、右から左に記述されます。その起源はアラム[[文字]]に遡り、紀元1～3世紀頃の北メソポタミア、現在のトルコ・ウルファ付近のエデッサで用いられていた碑文が最古の証拠とされています。

歴史と発展

シリア文字の起源は定かではありませんが、初期の碑文や文書から、西暦411年には既に使用されていたことが分かっています。当初は古典シリア語を表記するために用いられていましたが、19世紀にはヨーロッパの宣教師によって現代アラム語の表記法が考案され、現在まで使用されています。

5世紀以降は、シリア文字のエストランゲロ体に近い文字が、パレスチナのキリスト教徒が用いる西アラム語の表記にも用いられました。さらに、シリア文字から派生した文字体系は、マニ教徒によって中世ペルシア語、パルティア語、ソグド語、バクトリア語などの表記にも用いられ、東方書体（ネストリウス体）はソグド語表記にも利用されました。また、インドのマラヤーラム語（マランカラ正教会）や、中東のキリスト教徒が用いるガルシュニと呼ばれるアラビア語の表記にも使用例が見られます。

主要な書体

シリア文字には、大きく分けて以下の3つの主要な書体があります。

エストランゲロ体 (ܐܣܛܪܢܓܠܐ): 最も古い書体であり、他の2つの書体の基礎となっています。
ネストリウス体 (ܡܕܢܚܝܐ): 東方書体とも呼ばれ、ネストリウス派で用いられました。
* セルトー体 (ܣܪܛܐ): 西方書体とも呼ばれ、ヤコブ派やマロン派で用いられました。

これ以外にも、メルキト体など複数の書体が存在します。各書体によって文字の形状や表記方法に微妙な違いが見られます。エストランゲロ体では、位置による字形の違いは少なく、k、m、nの語末形が異なる程度です。22文字のうち8文字（ʾ、d、h、w、z、ṣ、r、t）は他の文字と連結して書くことができません。

母音表記と加点

シリア文字は基本的に子音のみを表記しますが、母音の表記方法も発展してきました。長いā、ēはʾで、ī、ayはyで、u、ū、o、ō、awはwでそれぞれ表記されました。また、名詞の単数形と複数形を区別するために、複数形の上部にトレマに似た点を打つなど、様々な目的で文字の上下に点を打つ「加点」が行われました。後世には、母音をより正確に表すために、西方書体ではギリシア[[文字]]由来の記号を、東方書体では点の位置と個数を用いる方法が発展しました。さらに、発音しない子音（黙字）を示す記号や、破裂音と摩擦音を区別するための記号も用いられました。

コンピュータとUnicode対応

Microsoft Windows XP以降では、「Estrangelo Edessa」フォントが利用可能になり、Unicode 3.0以降では、シリア文字の大半が対応しています。Unicode 4.0では、背景色がグレーの文字も対応しました。Unicode 10.0（2017年）では、マラヤーラム語表記のための拡張ブロック（Syriac Supplement: U+0860-U+086F）が追加されています。ガルシュニー、パレスチナのキリスト教アラム語、中世ペルシア語、ソグド語のための文字もUnicodeに含まれています。

まとめ

シリア文字は、その長い歴史の中で様々な発展を遂げ、現在も中東地域で用いられています。その独特の書体や表記法、そしてUnicodeへの対応は、この文字体系が現代においても重要な役割を果たしていることを示しています。今後、さらなる研究とデジタル化の進展によって、シリア文字の理解と活用がさらに深まることが期待されます。

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