レッド (キング・クリムゾンのアルバム)
キング・クリムゾンのディスコグラフィにおいて、第2期と呼ばれる時代の活動を締めくくる重要な作品が、1974年9月27日に世に送り出されたアルバム『レッド』です。
この時期のバンドは、中心メンバーであるギタリストのロバート・フリップ、ベーシスト兼ヴォーカリストのジョン・ウェットン、ドラマーのビル・ブルーフォードという強固なトライアングルを軸に展開していました。1973年の『太陽と戦慄』以降、この3人にヴァイオリニストのデヴィッド・クロスを加えた四人組として精力的に活動を続けていました。
アルバム『暗黒の世界』を1974年3月に発表した後、バンドは立て続けにヨーロッパおよび北米での大規模なツアーを敢行します。しかし、クラシック音楽を背景に持つクロスは、ロックコンサート特有の過大な音量や会場の音響問題に徐々に疲弊していきました。その結果、北米ツアーの終了とともに彼はバンドを離れることとなります。
クロスが脱退した直後の7月、フリップ、ウェットン、ブルーフォードの3人は、ロンドンのオリンピック・サウンド・スタジオに入り、本作のレコーディングを開始します。この制作過程では、過去にキング・クリムゾンに在籍したイアン・マクドナルド（サクソフォーン）やメル・コリンズ（サクソフォーン）らをゲストに迎え、音楽性に厚みを加えていきました。
収録された楽曲は、バンドの新たな方向性を示すものとなりました。
レッド (Red)：アルバムの表題曲であり、オープニングを飾るインストゥルメンタルです。ディストーションの効いたギターリフが前面に押し出され、それまでのキング・クリムゾンと比較して、よりヘヴィでリジッドなサウンドが特徴です。
堕落天使 (Fallen Angel)：3人の核にゲストを加えた演奏が聴ける楽曲です。
再び赤い悪夢 (One More Red Nightmare)：ウェットンがリードヴォーカルを務める、緊張感あふれるナンバーです。
神の導き (Providence)：これは、クロス在籍時の北米ツアー中、1974年6月30日にプロビデンスで行われたライブでの即興演奏がそのまま収録されたものです。その場の空気感が伝わる、貴重な記録となっています。
* スターレス (Starless)：本作のハイライトの一つであり、12分を超える壮大な楽曲です。初期の代表曲「エピタフ」や「クリムゾン・キングの宮殿」を彷彿とさせる、メロディアスで情感豊かな静かなパートから始まります。しかし、曲が進むにつれてサクソフォーンとギターが絡み合う激しい即興演奏が展開され、静と動のコントラストが際立ちます。この曲は、元々前作のためにウェットンとリチャード・パーマー・ジェイムスによってバラードとして構想されたものが土台となっており、ツアーでの演奏を経て、本作に収録されるにあたって歌詞やアレンジ（冒頭のヴァイオリンをギターに置き換えるなど）が変更され、タイトルも短縮されました。
音楽的な内容だけでなく、アートワークも本作の雰囲気を強く印象づけています。デザイナーのジョン・コッシュが手掛けたカバーは、写真家のゲレッド・マンコウィッツが撮影した写真を使用しています。表ジャケットに写るフリップ、ウェットン、ブルーフォードの3人は、実際にはメンバー間の関係性の冷え込みから、別々に撮影された写真を合成して作られました。アルバムタイトルである「赤」を生かすため、写真はモノクロームが採用されました。
特に印象的なのが裏ジャケットに配されたタコメーターの写真です。これは古い録音機器の音量メーターであり、許容量を超えて振り切れている針が、アルバムタイトル『レッド』の色合い、収録曲が持つ激しさ、そして何よりもバンドが解散に向かう直前の危機的な状況を象徴していると言われています。
本作は発表されるや否や高い評価を受けました。例えば、アメリカの音楽メディアであるピッチフォークからは「1970年代最高のアルバム100選」で第72位に、ローリング・ストーン誌の「史上最高のプログレッシブ・ロック・アルバム50選」では第15位にランクインするなど、現在に至るまで名盤としての地位を確立しています。
しかしながら、この傑作の発表は、同時に第2期キング・クリムゾンの終焉を意味するものでした。アルバムのリリースに先立ち、ロバート・フリップによってバンドの解散が宣言され、1974年9月27日の発表をもって、この編成での活動は幕を閉じたのです。
『レッド』はその後の音楽シーンにも影響を与えました。ニルヴァーナのカート・コバーンは自身のアルバム『イン・ユーテロ』制作時に本作からの影響を公言しています。また、日本のミステリー作家、法月綸太郎は収録曲「One More Red Nightmare」の邦題を作品名に用いるなど、様々な分野で言及されています。
発表から40周年を迎えた2013年には、当時の貴重なライブ音源やミックス違いなどを多数収録した豪華なボックスセット『レッド 40thアニバーサリー・ボックス: The Road To Red』がリリースされ、改めて本作に至る道のりが検証されました。多くのアーティストによってカバーもされており、その影響力と人気は現在も衰えることを知りません。
『レッド』は、キング・クリムゾンの歴史において、一つの時代の終わりを告げると同時に、来るべき未来への予兆をも孕んだ、深く、そして激しい輝きを放つ金字塔と言えるでしょう。
この時期のバンドは、中心メンバーであるギタリストのロバート・フリップ、ベーシスト兼ヴォーカリストのジョン・ウェットン、ドラマーのビル・ブルーフォードという強固なトライアングルを軸に展開していました。1973年の『太陽と戦慄』以降、この3人にヴァイオリニストのデヴィッド・クロスを加えた四人組として精力的に活動を続けていました。
アルバム『暗黒の世界』を1974年3月に発表した後、バンドは立て続けにヨーロッパおよび北米での大規模なツアーを敢行します。しかし、クラシック音楽を背景に持つクロスは、ロックコンサート特有の過大な音量や会場の音響問題に徐々に疲弊していきました。その結果、北米ツアーの終了とともに彼はバンドを離れることとなります。
クロスが脱退した直後の7月、フリップ、ウェットン、ブルーフォードの3人は、ロンドンのオリンピック・サウンド・スタジオに入り、本作のレコーディングを開始します。この制作過程では、過去にキング・クリムゾンに在籍したイアン・マクドナルド（サクソフォーン）やメル・コリンズ（サクソフォーン）らをゲストに迎え、音楽性に厚みを加えていきました。
収録された楽曲は、バンドの新たな方向性を示すものとなりました。
レッド (Red)：アルバムの表題曲であり、オープニングを飾るインストゥルメンタルです。ディストーションの効いたギターリフが前面に押し出され、それまでのキング・クリムゾンと比較して、よりヘヴィでリジッドなサウンドが特徴です。
堕落天使 (Fallen Angel)：3人の核にゲストを加えた演奏が聴ける楽曲です。
再び赤い悪夢 (One More Red Nightmare)：ウェットンがリードヴォーカルを務める、緊張感あふれるナンバーです。
神の導き (Providence)：これは、クロス在籍時の北米ツアー中、1974年6月30日にプロビデンスで行われたライブでの即興演奏がそのまま収録されたものです。その場の空気感が伝わる、貴重な記録となっています。
* スターレス (Starless)：本作のハイライトの一つであり、12分を超える壮大な楽曲です。初期の代表曲「エピタフ」や「クリムゾン・キングの宮殿」を彷彿とさせる、メロディアスで情感豊かな静かなパートから始まります。しかし、曲が進むにつれてサクソフォーンとギターが絡み合う激しい即興演奏が展開され、静と動のコントラストが際立ちます。この曲は、元々前作のためにウェットンとリチャード・パーマー・ジェイムスによってバラードとして構想されたものが土台となっており、ツアーでの演奏を経て、本作に収録されるにあたって歌詞やアレンジ（冒頭のヴァイオリンをギターに置き換えるなど）が変更され、タイトルも短縮されました。
音楽的な内容だけでなく、アートワークも本作の雰囲気を強く印象づけています。デザイナーのジョン・コッシュが手掛けたカバーは、写真家のゲレッド・マンコウィッツが撮影した写真を使用しています。表ジャケットに写るフリップ、ウェットン、ブルーフォードの3人は、実際にはメンバー間の関係性の冷え込みから、別々に撮影された写真を合成して作られました。アルバムタイトルである「赤」を生かすため、写真はモノクロームが採用されました。
特に印象的なのが裏ジャケットに配されたタコメーターの写真です。これは古い録音機器の音量メーターであり、許容量を超えて振り切れている針が、アルバムタイトル『レッド』の色合い、収録曲が持つ激しさ、そして何よりもバンドが解散に向かう直前の危機的な状況を象徴していると言われています。
本作は発表されるや否や高い評価を受けました。例えば、アメリカの音楽メディアであるピッチフォークからは「1970年代最高のアルバム100選」で第72位に、ローリング・ストーン誌の「史上最高のプログレッシブ・ロック・アルバム50選」では第15位にランクインするなど、現在に至るまで名盤としての地位を確立しています。
しかしながら、この傑作の発表は、同時に第2期キング・クリムゾンの終焉を意味するものでした。アルバムのリリースに先立ち、ロバート・フリップによってバンドの解散が宣言され、1974年9月27日の発表をもって、この編成での活動は幕を閉じたのです。
『レッド』はその後の音楽シーンにも影響を与えました。ニルヴァーナのカート・コバーンは自身のアルバム『イン・ユーテロ』制作時に本作からの影響を公言しています。また、日本のミステリー作家、法月綸太郎は収録曲「One More Red Nightmare」の邦題を作品名に用いるなど、様々な分野で言及されています。
発表から40周年を迎えた2013年には、当時の貴重なライブ音源やミックス違いなどを多数収録した豪華なボックスセット『レッド 40thアニバーサリー・ボックス: The Road To Red』がリリースされ、改めて本作に至る道のりが検証されました。多くのアーティストによってカバーもされており、その影響力と人気は現在も衰えることを知りません。
『レッド』は、キング・クリムゾンの歴史において、一つの時代の終わりを告げると同時に、来るべき未来への予兆をも孕んだ、深く、そして激しい輝きを放つ金字塔と言えるでしょう。
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