レッド・ローズ・スピードウェイ

『レッド・ローズ・スピードウェイ』は、1973年に発表された、ポール・マッカートニー&ウイングスのセカンド・アルバムです。日本では、同年6月20日に東芝音楽工業からリリースされました。

背景と制作

ビートルズ解散後、ポール・マッカートニーが妻のリンダ、そしてデニー・レインらと共に結成したバンド、ウイングスにとって2作目にあたる本作は、バンドのターニングポイントとなる作品でした。デビュー・アルバム『ウイングス・ワイルド・ライフ』がマスコミから厳しい評価を受け、その商業的成績もポールの初期ソロ作品に及ばなかったことを受け、所属レコード会社の強い意向により、本作は「ポール・マッカートニー&ウイングス」という名義で発表されることになりました。

本作の制作は、バンドの結束を固めるために1972年に行われた精力的なライブ活動と並行して進められました。約半年をかけてレコーディングされた楽曲は30曲近くに上り、当初はこれらをまとめて2枚組のアルバムとしてリリースする構想もありました。しかし、レコード会社の反対もあり、最終的には収録曲を厳選して1枚組の作品として完成しました。

商業的成功

このアルバムは、先行シングルとしてリリースされたバラード「マイ・ラヴ」が世界的なヒットとなったことも追い風となり、前作を大きく上回る商業的成功を収めました。特にアメリカでは、「ビルボード」誌のアルバム・チャートで当時チャートインしていた『ザ・ビートルズ1967年〜1970年』（通称『青盤』）と入れ替わる形で、1973年6月2日から3週間にわたり連続で第1位を獲得。1973年度の年間ランキングでも33位にランクインしました。「キャッシュボックス」誌でも同様に3週連続1位、年間33位を記録し、アメリカ国内だけで50万枚以上の売上を達成しました。一方、イギリスではアルバム・チャートで最高位第5位を記録しています。

アナログ盤のバックカバーには、点字で「We love you」というメッセージが刻まれており、これはポールが敬愛するミュージシャン、スティーヴィー・ワンダーへの敬意を示したものとされています。ポールとスティーヴィーは後に「エボニー・アンド・アイボリー」や「ホワッツ・ザット・ユアー・ドゥーイング？」で共演を果たしています。

楽曲について

本作のハイライトと言える楽曲が、ポールがリンダに捧げた美しいラブソング「マイ・ラヴ」です。シングルとして発表されると、全米チャートで4週連続で首位を獲得する大ヒットとなりました。ビートルズ解散後のポール作品に批判的だった一部の音楽評論家からも高く評価され、「イエスタデイ」以来の傑作と称賛する声も聞かれました。ポール自身も、この曲をその後のキャリアを通じてライブの定番曲として演奏し続けています。

アルバムのオープニングを飾る「ビッグ・バーン・ベッド」は、1971年のポール＆リンダ名義のアルバム『ラム』に収録された「ラム・オン」の後半部分を発展させて完成した楽曲です。また、「ゲット・オン・ザ・ライト・シング」と「リトル・ラム・ドラゴンフライ」は、『ラム』のセッションで録音されたものの未発表となっていたテイクをそのまま流用しているため、ウイングスのメンバーではない外部のミュージシャンがギターを演奏しています。

ポール・マッカートニーは、ビートルズ時代の『アビイ・ロード』B面で見られた、短い楽曲を繋げてメドレー形式にする手法をその後も好んで用いました。本作の最終トラックも、4つの楽曲で構成される約11分のメドレーとなっています。ちなみに、「ホールド・ミー・タイト」という曲はビートルズのアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』にも同名の楽曲が収録されていますが、本作に収められているのは全く別の曲です。

当時のウイングスには、「マイ・ラヴ」以外にも、映画『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌や「ハイ・ハイ・ハイ」といったヒット曲が存在しましたが、これらはアルバム発表当初は本編には収録されませんでした。しかし、1993年にデジタル・リマスターされた現行盤がリリースされた際に、一部のシングル収録曲などがボーナス・トラックとして追加収録されています。「マイ・ラヴ」のシングルB面だった「ザ・メス」は、ウイングスにとって初の公式ライブ音源として発表された曲です。

初期のウイングスでは、ポールだけでなくリンダやデニー・レインもリード・ヴォーカルを担当することがありました。デニー・レインが歌う「アイ・ライ・アラウンド」は、ウイングスのスタジオ録音作品において、ポール以外のメンバーが初めてリード・ヴォーカルをとった楽曲として知られています。

全ての収録曲は、ポール・マッカートニーとリンダ・マッカートニーによって書かれました。

オリジナル・ダブル・アルバム・ヴァージョン

2018年には、アーカイヴ・コレクション・シリーズの制作過程で発見された1973年当時のトラックリストに基づき、当初構想されていた2枚組のヴァージョンが復元され、単独のアナログLPとしてリリースされました。これは、アーカイヴ・コレクションのデラックス・エディション盤にもボーナスCDとして含まれています。

演奏者

ウイングス
ポール・マッカートニー: ヴォーカル、ベース、ギター、キーボード
リンダ・マッカートニー: ヴォーカル、キーボード
デニー・レイン: ヴォーカル、ギター
デニー・シーウェル: ドラムス
ヘンリー・マカロック: ヴォーカル、ギター

外部ミュージシャン
リチャード・ヒューソン: オーケストラ・アレンジメント (「マイ・ラヴ」)
ヒュー・マクラッケン: エレクトリック・ギター (「ゲット・オン・ザ・ライト・シング」)
デヴィッド・スピノザ: エレクトリック・ギター (「ゲット・オン・ザ・ライト・シング」)

もう一度検索