ロジェ・ガロディ

ロジェ・ガロディ（Roger Garaudy, 1913年7月17日 - 2012年6月13日）は、フランスの哲学者、共産主義者、レジスタンス活動家として多岐にわたる活動を行った人物です。しかし、晩年にはホロコースト否認論者として知られるようになり、その思想と行動は大きな論争を呼びました。

生涯と経歴

マルセイユで生まれたガロディは、ソルボンヌ大学で哲学の学位を取得しました。その後、クレルモン＝フェラン大学やポワチエ大学で教鞭を執り、1986年から1990年にはスペイン・コルドバのガロディ文化センター財団理事長を務めました。

政治活動においては、1933年にフランス共産党に入党し、ナチス占領下ではレジスタンス運動に参加、逮捕されて収容所生活を送る経験もしています。戦後、共産党の要職を歴任し、理論的指導者として活動しましたが、1968年のソ連によるチェコスロヴァキア侵攻をめぐり党中央と対立し、1970年に「右翼修正主義者」として党から除名されました。

1982年には、イスラエルのレバノン侵攻を批判し、親イスラエル勢力との摩擦が生じ、出版や発言の機会が減ったと述べています。同年、キリスト教からイスラム教に改宗しました。

ホロコースト否認論

1990年代に入ると、ガロディはガス室の実在をはじめとするホロコースト否認に関する言論活動を活発化させました。1995年には、著書「イスラエルの政策を創設する諸神話」を出版し、ナチスによるユダヤ人大量虐殺を「政治的誇張であり神話である」と主張しました。

ガロディの主張は以下の様なものでした。

ユダヤ人問題の最終的解決はヨーロッパからのユダヤ人追放である。
600万人とされる死亡者数は誇張であり、犠牲者の大半は強制労働やチフスで死亡した。
絶滅収容所のガス室は焼却炉である。
フランスとアメリカのシオニスト・ロビイストが「600万人」の神話を捏造した。

また、ホロコーストを描いた記録映画「SHOAH ショア」を「ショアー・ビジネス」と批判し、フランスのメディアがシオニズムやユダヤ人の手中にあると主張しました。

法廷闘争

1996年、ガロディの著作がメディアで報道されると、レジスタンス団体や人権擁護団体から批判を受け、人種的憎悪教唆罪などで告発されました。1998年、パリ大審裁判所は一部を除き有罪判決を下し、控訴院もすべての案件に対して有罪判決を支持しました。ガロディは執行猶予付きの禁固刑と罰金刑を科せられました。

裁判所はガロディの意見を「ユダヤ人共同体の名誉を毀損している」と認定しました。その後、ガロディの上告は破棄され、有罪が確定しました。

この裁判では、元レジスタンスのアベ・ピエール神父がガロディを支持し、「ホロコースト」の議論をタブーにするべきではないと述べましたが、後に撤回しています。また、シオニズムに批判的なユダヤ人ヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインがガロディのホロコーストに関する姿勢を支持したことも大きな議論を呼びました。

ガロディは欧州人権裁判所に「公正な裁判を受ける権利」などが侵害されたとして訴えましたが、裁判所はガロディのホロコースト否認の言動を「ユダヤ人に対する人種的な名誉毀損と憎悪の扇動のもっとも先鋭な形態」と判断し、却下しました。

哲学と思想

ガロディは1940年代からジャン＝ポール・サルトルの実存主義を批判し、「病気」と表現しました。当初はマルクス主義を信奉していましたが、ソ連共産党のスターリン批判で動揺し、後にアルチュセールのマルクス主義哲学にも反対しました。彼は他の学派との対話を重視しました。

人物

ガロディはカトリック教徒の家庭に生まれましたが、14歳でプロテスタントに改宗し、後にイスラム教に改宗しています。

著書（一部）

『自由』（1956年、青木書店）
『認識論』（1956年、青木書店）
『近代フランス社会思想史』（1958年、ミネルヴァ書房）
『20世紀のマルクス主義』（1968年、紀伊國屋書店）
『対話の価値 : 新しい社会主義のために』（1968年、サイマル出版会）
『カフカ : 岸辺なきレアリスム』（1970年、思潮社）
『現代中国とマルクス主義』（1970年、大修館書店）
『21世紀の社会主義』（1970年、読売新聞社）
『ピカソ : 反抗の弁証法』（1973年、審美社）
『人間の言葉』（1978年、新潮社）
『偽イスラエル政治神話』（1998年、れんが書房新社）

受賞歴

1980年 - ドゥ・マゴ賞
* 1986年 - キング・ファイサル国際賞イスラーム奉仕部門

ガロディの生涯は、政治思想の変遷と、晩年のホロコースト否認論という極めて複雑な側面を示しています。彼の思想と行動は、今日でも議論の対象となっています。

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