ロストワールド (ゲーム)

カプコンが1988年に世に送り出したアーケードゲームに『ロストワールド』があります。この作品は、同社が開発したシステム基板「CPシステム」の第一弾タイトルとして、当時のゲームシーンに新たな風を吹き込みました。横スクロール形式のシューティングゲームでありながら、その内容は従来の常識を覆す野心的なものでした。海外および家庭用ゲーム機に移植される際には、『フォゴットンワールド』と改題されています。

ゲームシステム

プレイヤーは8方向レバーと特殊なボタン「ローリングスイッチ」を組み合わせて自機を操作します。本作は残機が無く、ライフ制を採用しているのが特徴です。自機には「サテライト」と呼ばれる子機が追従しており、これが攻撃や防御に重要な役割を果たします。敵を倒すと手に入る専用通貨「ゼニー」を集め、ステージ中に登場するショップで装備を購入して自機やサテライトを強化していくRPGのような進行も、本作の大きな魅力となっています。また、2人同時での協力プレイが可能であり、協力することで特殊な攻撃を発動させることも可能です。なお、アーケード版には調整が異なる旧バージョンと新バージョンが存在します。

独自インターフェース「ローリングスイッチ」

本作を語る上で欠かせないのが、独自開発の入力デバイス「ローリングスイッチ」です。直径約5cm、高さ約2cmのダイヤル状スイッチで、上部には指を置くための窪みが3つ設けられています。このスイッチを左右に回すことで、ショットの方向を360度、16方向に細かく制御できます。さらにスイッチを押し込むことで、ショット（フルオート連射）が発射されます。スイッチの連打で、自機の体力を消費して画面全体の敵にダメージを与える「メガクラッシュ」が発動。スイッチを押し込みながら回すと、サテライトは自機に対する相対位置を維持したままその場で旋回し、スイッチを回すだけではサテライトが自機の周囲を公転するという、サテライトの操作にも関わる多機能デバイスでした。自機とサテライトは常に同じ方向を向きます。

攻撃とパワーアップ

基本的な攻撃は自機のショットですが、サテライトからの特殊ショットも重要な攻撃手段となります。ショップでは、プレイヤー自身の攻撃力や防御力、体力の回復アイテムに加え、サテライトに装備させる様々な武装を購入できます。敵を追尾するミサイル、ビーム、広範囲を攻撃するワイドショット、壁で跳ね返るバウンドショット、火炎放射器など、合計11種類の多彩な武装が存在し、プレイヤーの戦略の幅を広げます。2人協力プレイ時には、プレイヤー同士が接近すると「オーラスパーク」が発生し、ノーマルショットがパワーアップする連携要素も用意されています。

世界観とストーリー

物語の舞台は、破壊神であり魔の創造主である天帝バイオスとその配下である8邪悪神によって滅亡寸前に追いやられた世界です。かつて人族が栄えていた都市は、武神率いる侵攻により廃墟と化し「ダストワールド」と呼ばれるようになりました。しかし、滅びた人々の無念の想いが結集し、2人の超戦士がこの地に誕生します。彼らは失われた世界の希望を背負い、天帝バイオスを打倒するために戦いを挑む、という壮大なストーリーが展開されます。

キャラクター

自機となる超戦士は、どちらも肩パッド付きのミリタリー風コスチュームにサングラス姿で、素顔は窺い知れません。青いコスチュームの1Pは白色人種風、赤いコスチュームでモヒカン頭の2Pは黒色人種風の外見を持ちます。敵キャラクターを含め、登場人物の多くに名前が設定されているにも関わらず、肝心の主人公2人には公式な名前が存在しないというユニークな特徴があります。これは開発者の西谷亮氏が名前の付け忘れに気付いたものの、当時の風潮からそのままにしてしまったためだと後に語っています。そのため、メディアなどでは「名無しの超戦士」などと呼ばれ、区別のため1P、2Pと付記されることが多かったです。ショップの店主「シルフィー」も、場所や時間を問わず必要に応じて現れる謎めいた存在として描かれています。敵ボスの8邪悪神や天帝バイオスも、それぞれ詳細な設定が作り込まれています。

ラウンド構成

ゲームは全9ラウンドで構成されており、大きく分けて「ダストワールド」「ピラミッドワールド」「天空界」という三つの世界を巡ります。各世界には、天帝バイオスが生み出した8邪悪神が待ち受けます。ダストワールドはかつての都市が崩壊した廃墟で、様々なエリアを経て武神との戦いに挑みます。ピラミッドワールドは古代エジプトを思わせる迷宮で、ここではルート分岐が存在し、メスケテト、スフィンクス、ツタンカーメンといったボスが待ち受けます。最後の天空界は、天帝の配下が集まる領域であり、バベルの塔の門番である雷神と風神を倒し、最上階で天帝バイオスとの最終決戦に臨みます。

開発秘話

本作は、後に『ファイナルファイト』や『ストリートファイターII』で知られるゲームデザイナー、西谷亮氏がカプコン入社後初めて手掛けた作品です。当初は『魂斗羅』のような横スクロールアクションを想定していましたが、当時の開発環境では岡本吉起氏がイメージする派手なアクションの実現が難しかったそうです。しかし、CPシステム開発の話が持ち上がったことで、その構想が実現可能になったといいます。ショップでのパワーアップシステムは『ファンタジーゾーン』へのリスペクトから、ローリングスイッチによるサテライト操作は『R-TYPE』を参考に、細かな制御による攻略の幅を意識して導入されました。ホーミングレーザーも西谷氏のアイデアによるものです。一方、天帝などの世界観やボスキャラクターのコンセプトはあきまん氏が主に担当し、狂った神を倒す「神狩り」をテーマに、宗教音楽の要素を取り入れたBGMを依頼した経緯もあります。あきまん氏は、本作の世界観を『ファイナルファイト』『キャプテンコマンドー』と繋がる終末後の地球であると示唆しています。ステージ1のデザインは、当初有機的なものだったが、当時の社長の助言で荒廃都市に変更されたというエピソードもあり、後の作品にも影響を与えています。

移植版

アーケード版は、後に『カプコンクラシックスコレクション』（PS2/Xbox）や『Capcom Classics Collection Remixed』（PSP）に収録されました。家庭用としては、メガドライブ、セガ・マスターシステム（海外のみ）、PCエンジン（SUPER CD-ROM2）などに移植されています。これらの移植版は、ハードの性能や容量、コントローラー仕様の違いから、アーケード版とは異なる点が多いです。特にメガドライブ版はステージが一部カットされ、グラフィックやサウンドも簡略化されています。PCエンジン版は、当時のPCエンジンのパッド仕様に合わせて3ボタンの「アベニューパッド3」が同梱され、さらにアナログパッドにも対応するなど操作性の工夫が凝らされました。グラフィックはPCエンジン版独自の要素も盛り込まれ、一部で業務用を凌駕するとの評価も得ましたが、移植開発には2年以上を要したといいます。

反響と評価

稼働当時、ローリングスイッチという異色のインターフェースは大きな話題を呼びました。方向操作と攻撃ボタンを一体化した斬新なシステムでしたが、構造上の問題から故障が頻発したため、残念ながら後続作品には採用されませんでした。ゲームセンターによっては、高価な基板であることや特殊な操作デバイスが敬遠され、導入に消極的な店舗もあったようです。しかし、ゲーム内容自体は高く評価されました。特に『ゲーメスト』誌上では、1988年度のゲーメスト大賞で2位に輝き、ベストシューティング賞2位、ベストエンディング賞3位、そして特にグラフィック賞では1位を獲得するなど、その技術力が高く評価されました。独特の操作性やサテライトシステムも革新的と評され、ゼニーを集めるハイスコア戦略も注目されました。後年のゲーメストムック『ザ・ベストゲーム2』でも、カプコンの質の高いグラフィックとローリングスイッチの革新性、そしてサテライトシステムの秀逸さが改めて評価されています。