ロトスファエリダ目
ロトスファエリダ目（Rotosphaerida）は、真核生物の大きなグループであるオピストコンタに属する微生物の一群です。これは生物界の一つである菌界の系統的な姉妹群として位置づけられていますが、カビやキノコといった典型的な菌類に見られる特徴はほとんど持ちません。「ヌクレアリア類（nucleariids）」という総称でも呼ばれており、その多くは微細なアメーバ様の単細胞生物で、細く糸状に伸びる仮足を使って移動や捕食を行います。かつて、その独特な形態から分類学上の位置づけが困難で、様々な分類群に分散して扱われていましたが、近年の電子顕微鏡による詳細な観察や分子系統解析によって、まとまりのある一つの系統群であることが明らかになり、その系統的位置が確定しました。分類体系によっては、このグループ全体を指して「ヌクレアリア界（Nucleariae）」や「クリスチディスコイデア綱（Cristidiscoidea）」といったより高位の階級名を用いることもあります。
本目の生物は、通常直径が3マイクロメートルから60マイクロメートル程度の微小な単細胞生物です。形状は球形ややや扁平なアメーバ様ですが、最大の特徴は、細胞体から放射状に伸びる非常に細い糸状仮足（filopodia）を持つことです。この仮足を用いて基質上を移動したり、小さな餌生物を捕捉したりします。遊泳に使う鞭毛は全く持ちません。細胞内には、核小体が明瞭な顕著な細胞核が目立ちます。種によっては複数の核を持ち、多核体や細胞が融合した合胞体となることもあります。細胞質には、浸透圧調節に関わる収縮胞や、捕食した粒子を消化する食胞が多数存在します。細胞表面は粘液性のグリコカリックスで覆われており、保護や付着に役立っています。また、エネルギー産生を担うミトコンドリア内部のクリステ（内膜のひだ）が、多くの生物で板状であるのに対し、本群では平板状または盤状であることも特徴的な形態の一つです。一部の種では、細胞の内外に特定のバクテリアを共生させている例も知られています。
ロトスファエリダ目は、電子顕微鏡の普及以前は、糸状仮足を持つアメーバや太陽虫など、形態が類似する様々な分類群に分散して扱われていました。1980年代に電子顕微鏡を用いた微細構造、特に糸状仮足やミトコンドリアクリステの観察が進んだことで、これらの生物群に共通の特徴があることがわかり、分類群としての一体性が認識されるようになりました。そして、21世紀に入ってからの分子系統解析によって、本群がオピストコンタ内部に位置し、中でも真菌類に最も近縁な系統群であることが確実となりました。現在、形態に基づいて約3科10属程度が知られていますが、分子情報が得られているのはその一部に限られます。環境DNA解析からは、まだ記載されていない新たな系統群が存在することも示唆されており、その多様性は現在知られているよりも大きいと考えられています。主要な科としては、細胞表面に鱗片を持たないヌクレアリア科（Nucleariidae）、細胞表面に鱗片を持つポンフォリクソフリス科（Pompholyxophryidae）、そして細胞が集まって細胞性粘菌のような累積子実体を形成するフォンティクラ科（Fonticulidae）の3つが知られています。フォンティクラ科に属するFonticula albaは、かつては独立した細胞性粘菌とされていましたが、分子解析によりヌクレアリア類に近縁と判明し、本群に含まれるようになりました。
ロトスファエリダ目の位置づけは、研究手法の発展とともに大きく変化してきました。形態的な特徴からRainerが太陽虫目の亜目としたり、Pageがミトコンドリアクリステの形状に着目して糸状仮足綱の目として整理したりしました。特にCavalier-Smithは、糸状仮足と特徴的なクリステという形態的共通性に加え、分子情報で近縁と示されたFonticulaを統合し、ヌクレアエリ類全体を「クリスチディスコイディア」と呼び、上位分類群（亜門など）として扱いました。この体系では、細胞性粘菌様の生活環を持つか否かでヌクレアリア目とフォンティクラ目に区分されました。近年、菌類学の視点からTedersooらは、2018年に本群を菌界から分離し、独立した界「ヌクレアリア界」に位置づけ、細胞性粘菌様の特徴で門レベル（ヌクレアリア門とフォンティクラ門）に区分する体系を提唱しており、これが現在の菌類近縁群としての一般的な理解となりつつあります。
ロトスファエリダ目は、微細構造と分子系統解析によってその系統的位置が明らかになった、菌界に最も近縁な微生物群です。そのユニークな形態や生活環を持つ一部の種は、真核生物、特にオピストコンタの進化を理解する上で重要な示唆を与えています。環境DNA研究などによって未知の多様性も示唆されており、今後の研究によるさらなる解明が期待されています。
形態
本目の生物は、通常直径が3マイクロメートルから60マイクロメートル程度の微小な単細胞生物です。形状は球形ややや扁平なアメーバ様ですが、最大の特徴は、細胞体から放射状に伸びる非常に細い糸状仮足（filopodia）を持つことです。この仮足を用いて基質上を移動したり、小さな餌生物を捕捉したりします。遊泳に使う鞭毛は全く持ちません。細胞内には、核小体が明瞭な顕著な細胞核が目立ちます。種によっては複数の核を持ち、多核体や細胞が融合した合胞体となることもあります。細胞質には、浸透圧調節に関わる収縮胞や、捕食した粒子を消化する食胞が多数存在します。細胞表面は粘液性のグリコカリックスで覆われており、保護や付着に役立っています。また、エネルギー産生を担うミトコンドリア内部のクリステ（内膜のひだ）が、多くの生物で板状であるのに対し、本群では平板状または盤状であることも特徴的な形態の一つです。一部の種では、細胞の内外に特定のバクテリアを共生させている例も知られています。
多様性と分類史
ロトスファエリダ目は、電子顕微鏡の普及以前は、糸状仮足を持つアメーバや太陽虫など、形態が類似する様々な分類群に分散して扱われていました。1980年代に電子顕微鏡を用いた微細構造、特に糸状仮足やミトコンドリアクリステの観察が進んだことで、これらの生物群に共通の特徴があることがわかり、分類群としての一体性が認識されるようになりました。そして、21世紀に入ってからの分子系統解析によって、本群がオピストコンタ内部に位置し、中でも真菌類に最も近縁な系統群であることが確実となりました。現在、形態に基づいて約3科10属程度が知られていますが、分子情報が得られているのはその一部に限られます。環境DNA解析からは、まだ記載されていない新たな系統群が存在することも示唆されており、その多様性は現在知られているよりも大きいと考えられています。主要な科としては、細胞表面に鱗片を持たないヌクレアリア科（Nucleariidae）、細胞表面に鱗片を持つポンフォリクソフリス科（Pompholyxophryidae）、そして細胞が集まって細胞性粘菌のような累積子実体を形成するフォンティクラ科（Fonticulidae）の3つが知られています。フォンティクラ科に属するFonticula albaは、かつては独立した細胞性粘菌とされていましたが、分子解析によりヌクレアリア類に近縁と判明し、本群に含まれるようになりました。
分類体系における位置づけの変遷
ロトスファエリダ目の位置づけは、研究手法の発展とともに大きく変化してきました。形態的な特徴からRainerが太陽虫目の亜目としたり、Pageがミトコンドリアクリステの形状に着目して糸状仮足綱の目として整理したりしました。特にCavalier-Smithは、糸状仮足と特徴的なクリステという形態的共通性に加え、分子情報で近縁と示されたFonticulaを統合し、ヌクレアエリ類全体を「クリスチディスコイディア」と呼び、上位分類群（亜門など）として扱いました。この体系では、細胞性粘菌様の生活環を持つか否かでヌクレアリア目とフォンティクラ目に区分されました。近年、菌類学の視点からTedersooらは、2018年に本群を菌界から分離し、独立した界「ヌクレアリア界」に位置づけ、細胞性粘菌様の特徴で門レベル（ヌクレアリア門とフォンティクラ門）に区分する体系を提唱しており、これが現在の菌類近縁群としての一般的な理解となりつつあります。
まとめ
ロトスファエリダ目は、微細構造と分子系統解析によってその系統的位置が明らかになった、菌界に最も近縁な微生物群です。そのユニークな形態や生活環を持つ一部の種は、真核生物、特にオピストコンタの進化を理解する上で重要な示唆を与えています。環境DNA研究などによって未知の多様性も示唆されており、今後の研究によるさらなる解明が期待されています。
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