英国式ブラスバンド

英国式ブラスバンドとは

英国式ブラスバンドは、サクソルン属の金管楽器、トロンボーン、そして打楽器によって構成される、独特な編成を持つ金管バンドです。日本では「ブラスバンド」という言葉が吹奏楽を指すこともありますが、英国では吹奏楽は「ウィンドバンド」として明確に区別されています。

歴史

その起源は19世紀前半に遡り、イギリスの労働者階級の間で禁酒運動の一環として、レクリエーション活動として広まりました。当初は木管楽器も含まれる編成でしたが、19世紀半ばにアドルフ・サックスが開発したサクソルンが導入され、現在の金管楽器主体の編成へと変化しました。1853年にはベルヴューコンテストが始まり、編成の統一と演奏技術の向上が促進され、19世紀後半には救世軍が組織的にブラスバンドを取り入れました。産業革命による印刷技術の進歩は、楽譜の普及を助け、ブラスバンド運動の拡大に貢献しました。
20世紀に入るとクリスタルパレス・コンテストが開催され、オリジナル曲の作曲が盛んになり、レパートリーの拡充が進みました。現在、英国では町に一つはブラスバンドがあると言われるほど普及しており、約2000もの団体が活動しています。地域に密着した存在であり、企業がスポンサーになることも一般的です。また、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ各地でも盛んで、日本でも徐々に定着しつつあります。

使用楽器と編成

英国式ブラスバンドの代表的な編成は、以下の28名で構成されます。多くの楽曲はこの編成を前提に作曲・編曲されています。

コルネット・セクション

10名で構成される最大のセクションです。前列にはソロ・コルネットが配置され、後列にはソプラノ、リピアノ、セカンド、サードの各パートが配置されます。ソプラノ・コルネットはE♭調、その他のコルネットはB♭調で記譜されます。

ソロ・コルネット: 4名で主旋律を担当。首席奏者はプリンシパル・ソロ・コルネットと呼ばれ、コンサートマスターのような役割を担います。
ソプラノ・コルネット: 1名で、高音域やソロを担当します。
リピアノ・コルネット: 1名で、伴奏や副旋律を担当します。
セカンド・コルネット: 2名で、ハーモニーや打ち込みを担当します。
サード・コルネット: 2名で、ハーモニーや打ち込みを担当します。

ホーン・セクション

特徴的なパートで、バンドのサウンドを決定づけます。

フリューゲルホルン: 1名で、柔らかい音色でソロを担当します。B♭調。
テナーホーン: 3名で、ハーモニーを担当します。E♭調。
バリトン: 2名で、テナーホーン、トロンボーン、ユーフォニアムの間を繋ぎます。B♭調。

トロンボーン・セクション

円筒管楽器で、サウンドにメリハリを与えます。

トロンボーン: 2名で、ハーモニーを担当します。B♭調。
バス・トロンボーン: 1名で、低音域を支えます。ヘ音記号で実音記譜。

ベース・セクション

低音域を支えるセクション。

ユーフォニアム: 2名で、メロディーラインを担当します。B♭調。
E♭バス: 2名で、豊かで柔らかな音色を担当します。E♭調。
B♭バス: 2名で、最低音域を支えます。B♭調。

パーカッション・セクション

3名で、ティンパニ、ドラムセット、鍵盤打楽器などを担当します。

サウンドの特徴

英国式ブラスバンドのサウンドは、パイプオルガンのように荘厳で柔らかく、落ち着いたものです。楽器のベルが観客に向かない配置や、ビブラートの多用が特徴です。賛美歌のような美しいハーモニーを持つ楽曲に適しており、救世軍の布教活動に役立ちました。座席配置は馬蹄形にすることが多いです。

楽曲

耐久性や持久力が要求される、休符の少ない楽曲が多いです。古くはエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストなどの作曲家も作品を提供しています。また、他のジャンルからのアレンジも多く演奏されています。

主な作編曲家

エリック・ボール、ゴードン・ラングフォード、ジョージ・ロイド、デリク・ブルジョワ、ジョン・ゴーランド、ゴフ・リチャーズ、エドワード・グレグソン、ケネス・ダウニー、フィリップ・ウィルビー、フィリップ・スパーク、ヤン・ヴァン・デル・ロースト、マーティン・エレビー、ピーター・グレーアム、トルステイン・A・ニールセン、ポール・ラバット・クーパー、ウィリエム・ハイムス、フィリップ・ハーパー、トム・ダヴォレンなどが挙げられます。

コンテスト

コンテストは、演奏技術の向上を目的として、イギリスを中心に盛んに行われています。代表的なものとして、全英選手権、ヨーロッパ選手権、全英マスターズ、ブリティッシュオープンなどがあります。コンテストは、ブラスバンドのレパートリー形成に大きく貢献しており、多くのオリジナル作品が生まれています。課題曲は、ブラインド審査によって評価されます。

主要な団体

イギリス

ブラック・ダイク・バンド
The YBS Band (Hammonds Saltaire Band)
Cory Band
Fairey FP (Music) Band
The Foden's Richardson Band
ブリガース・アンド・ラストリック・ブラス・バンド
グライムソープ・コリアリー・バンド
The International Staff Band

日本

Japan Staff Band（救世軍）
救世軍関西ディビジョナルバンド（救世軍）
Tokyo Brass Society
BREEZE BRASS BAND
VIVID BRASS TOKYO
The Band of the Black Colt
大阪コンサートブラス
洗足学園音楽大学ブリティッシュ・ブラス
国立音楽大学金管バンド
浜松ブラスバンド

参考文献

The British Brass Band: A Musical and Social History
The History of British Military Bands
上宮真紀（2013）,ヴィクトリア朝イギリスにおけるブラスバンド運動の生成と拡大 : 1850年-1900年, 甲南大学

脚注

[1] Tokyo Brass Society
[2] 大阪コンサートブラス
[3] 浜松ブラスバンド

関連項目

ブラス!（映画）

外部リンク

4barsrest.com - ブラスバンドの情報サイト (英語)

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