ローガンジョシュ

ローガンジョシュ：カシミール地方を代表するスパイシーカレー

ローガンジョシュ (Rogan Josh) は、ペルシアまたはカシミール地方に起源を持つ、深みのある赤色が特徴的なスパイシーな肉カレーです。伝統的には羊肉またはヤギ肉を使用し、アルカネットの花や根、カシミールチリなど、独特のスパイスによって色と風味を付けられています。カシミール料理を代表する名物料理として知られ、その歴史と調理法は複雑で興味深いものです。

語源と名前の謎

「ローガンジョシュ」という名前の由来には諸説あります。「ローガン (Rogan)」はペルシア語やウルドゥー語でギー（精製バターオイル）や油を意味し、「ジョシュ (Josh)」は「煮込む」という意味の動詞に由来すると言われています。この解釈では、「ギーで煮込んだ料理」という意味になります。

一方で、「ローガン」を「赤色」を意味する言葉と解釈する説もあります。この場合、「ジョシュ」の部分は「肉 (Gosht)」または「汁 (Juice)」を意味する言葉と組み合わせられ、「赤い肉」または「赤い汁」を指すという解釈です。「Rogan Josh」と「Rogan Ghosht」の両方が使われていることから、正確な語源は未だ解明されていません。

ムガル帝国とカシミール

ローガンジョシュは、カシミールの伝統料理であり、ワズワン（カシミール式のコース料理）の代表的なメインディッシュとして位置付けられています。その起源はムガル帝国にまで遡り、ムガル帝国の人々がペルシア料理の影響を受けた料理をカシミールにもたらしたと考えられています。インド平野部の暑さから逃れるため、ムガル帝国の人々は涼しいカシミールをしばしば訪れており、そこでこの料理が発展したのでしょう。

伝統的な調理法と地域差

ローガンジョシュの調理法は、ニンニク、ショウガ、クローブ、ベイリーフ、カルダモン、シナモンなどのスパイスを使ったグレイビー（とろみのあるソース）で羊肉またはヤギ肉をじっくりと煮込むものです。レシピによってはタマネギやヨーグルトも加えられます。蒸し煮にした後、パン生地で蓋をして低温で長時間煮込む、インド特有の調理法が用いられます。

特徴的な赤色は、伝統的には乾燥させたアルカネットの花や根を使用することで得られます。カシミールチリも使用されますが、これはパプリカに近いマイルドな風味を持つ唐辛子です。サフランを加えることも多く、特にムスリムの家庭では好まれています。

興味深いことに、カシミールではヒンドゥー教徒とムスリムの調理法に違いが見られます。ムスリムはプラーン（地元産のシャロット）やマヴァル（ケイトウの一種）の花びらを色付けに使用しますが（これらの材料には体を冷やす効果があると信じられています）、ヒンドゥー教徒はニンニク、タマネギ、これらの材料を避け、コクを出すためにヨーグルトを加える場合があります。フェンネルやアサフェティダを加えることもあります。

ローガンジョシュの広がりと現代のレシピ

ジャンムー・カシミール州の料理であるローガンジョシュは、カシミール料理を専門としないイギリスのカレー店でも定番メニューとして見かけることができます。バングラデシュ料理を出す店などでも、移民してきた料理人によって調理され、インド亜大陸の代表的な料理として広く親しまれています。

伝統的なレシピでは、乾燥させた唐辛子を丸ごと使い、種を取り除いて水に浸し、ペースト状にして使用しますが、現代では手軽に手に入るカシミールチリパウダーを使用することもあります。また、パプリカパウダーとカイエンヌパウダーを混ぜたものを使用するレシピもあります。近年のレシピでは、ブラックカルダモン、アニス、ローリエなども使用されるようになっています。

西洋のレシピでは、トマトを加えることが一般的ですが、伝統的なローガンジョシュにはトマトは含まれていません。そのため、トマトの有無は、レシピの信憑性や地域性を議論する上で重要なポイントになっています。トマトを加えたものは、パンジャーブ地方のレシピであるとする説もあります。

肉の種類のバリエーション

インドでは、羊肉よりもヤギ肉の方が手に入りやすいことから、ヤギ肉を使用することも一般的です。牛肉、特にブリスケットを使用するレシピもあります。

ローガンジョシュは、その歴史、多様な調理法、そして奥深い味わいで、多くの人々を魅了する料理です。その起源と進化をたどることで、料理文化の豊かさ、そして地域差による多様性を垣間見ることができます。

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