ワイドクリアビジョン

ワイドクリアビジョンとは

ワイドクリアビジョンは、日本における第二世代EDTV（Enhanced Definition Television）方式、通称EDTV-IIの愛称です。これは、従来の標準解像度テレビ（SDTV、日本においてはNTSC方式）と互換性を維持しながら、画質の向上を目指した日本独自の技術です。

概要

ワイドクリアビジョンは、日本テレビ放送網が中心となり、民放の地上アナログ放送でハイビジョン（1035i）並みの16:9ワイドプログレッシブ走査式高画質放送（480p）を実現したいという強い要望から生まれました。現在のデジタルハイビジョン放送では、4Kや8Kの衛星放送、地上波試験放送を除き、プログレッシブ表示が可能な液晶モニターが普及しているにもかかわらず、データ容量の制約やBSデジタル開始時のコーデック制限により、フルハイビジョンに近い画質を追求するため、アナログ放送やMUSEハイビジョンと同様にインターレース走査が採用されています。

ワイドクリアビジョンでは、通常のNTSC規格の画面の上下に黒い無画部を挿入することで、有効縦横比を16:9にワイド化しました。さらに、主画面内には水平画質、上下の無画部には垂直時間と垂直画質を補強する信号を追加することで、高画質化を図りました。受信装置は、これらの高画質化技術のいずれか、または縦横比の判定装置が搭載されていれば、対応機器とみなされました。

歴史

クリアビジョンの制定時、ワイド化は次の課題とされ、レターボックス方式、サイドピクチャ方式、または両者の混合方式が試行錯誤されました。その後、レターボックス方式が採用され、1995年1月23日に電気通信技術審議会が「テレビジョン放送の画質改善技術」に関する第35号答申を行い、同年7月13日に放送が開始されました。

民放キー局は、ワイドクリアビジョンを送信できるように、エンコーダ、識別装置、報道用テロップ挿入移動装置などを配備しました。エンコード後の映像は、業界標準のD2-VTRなど、コンポジット記録が可能な機器で録画できました。地方局は、報道用テロップ挿入移動装置などを導入するだけで放送が可能でした。

当時、新社屋を建設したTBS（1994年竣工）とフジテレビ（FCGビル、1997年竣工）は、ワイドクリアビジョンに対応した設備を整えました。日本テレビは、通信衛星でデジタル圧縮したワイドクリアビジョン規格を実験放送し、デジタル放送でも480pを採用する考えでしたが、最終的には1080i（ハイビジョン）を採用しました。

当初、ハイビジョンの高音質と高画質のイメージが16:9比率のワイドテレビ受像機に結び付けられ、買い替え需要などの経済効果が期待されました。しかし、ワイドクリアビジョンは普及せず、放送業界からも視聴者からも忘れ去られました。S1/S2端子が残ったのみで、終息しました。その理由として、以下の点が挙げられます。

高音質、高画質、高解像度を求める需要が少なかった。
ワイドテレビでは通常の放送が不自然に横に拡大されるだけで、従来のテレビに比べて高価であった。
放送局は、ノーマルテレビでの上下黒帯表示が視聴率やスポンサーに影響することを懸念し、対応放送が少なかった。
放送局は、EDTV-IIへの投資よりも、地上デジタル放送への対応を優先した。
視聴者にとっては対応番組が少ないため対応テレビを買わず、放送局にとっては対応テレビの普及台数が少ないため対応放送が増えないという悪循環に陥った。

技術

映像信号処理

順次走査方式の映像（480p）をエンコーダに入力し、360本の順次走査映像に変換します。変換の際に失われる垂直成分情報をVHとして抽出します。この有効走査線数360本の順次走査映像をインターレース走査にするとともに、変換で失われる垂直成分情報をVTとして抽出します。ワイド化で画質劣化を防ぐためには1.4MHz以上の追加情報が必要ですが、日本の地上波標準テレビ放送は1チャンネルあたり6MHzなので、周波数の高い成分を分離し、HHとして主画面内に多重化します。走査線数変換、順次走査からインターレース走査への変換で得られたVH/VTを、無画部として主画面の上下に付加し、一般のNTSC受信機で受信可能な映像信号480iとします。

EDTV-II識別信号

この信号を受信すると、受信機は画像を拡大します。EDTV-IIを示す信号は、22H（および285H）に重畳されています。NTSCの場合、通常の4:3テレビでもこの場所は画面表示されますが、1〜21Hのほとんどがすでに他の用途に使われていること、垂直帰線区間（VBI）は機器によっては保存されない可能性があること、最上部であれば大きな妨害とは見なされにくいことから、この場所に重畳することになりました。

水平解像度補強信号（HH）

主画面内の変調色信号と共役関係にある吹抜ホール部分を利用して、水平解像度補強信号（HH）を重畳します。受信側でHHを基に補完することで水平解像度を向上させ、ワイド化に伴う水平方向の画質劣化を防ぎました。

垂直時間解像度補強信号（VT）

NTSCは、インターレース走査方式を採用しています。インターレース走査では、1フィールドあたりの走査線数は1フレームの半分になります。一方、EDTV-IIでは順次走査方式（プログレッシブスキャン）を採用しています。NTSCとの互換性を維持するため、1フィールドあたりの走査線数は変更できないため、順次走査の素材をインターレース走査に変換する際に失われる情報を垂直時間解像度補強信号として無画部に重畳し、受信機側で合わせて補完することで実現しました。

垂直解像度補強信号（VH）

EDTV-IIでは、16:9のワイド画像を送受信することを目標としました。既存のNTSC受信機との互換性を保つため、縦方向に3/4に縮小した画像を送信し、非対応機種では上下に無画部の入った画像（レターボックス）として表示されるようにしました。対応機種では識別信号により映像が拡大されます。しかし、そのままでは垂直方向の情報が元の3/4に失われたままなので、縮小の際に失われる情報を垂直解像度補強信号（VH）として静止時のみ無画部に重畳し、受信機側で合わせて補完することで、垂直解像度が480本程度となるようにしました。

対応受信機

放送開始当初は、3次元Y/C分離とまとめて処理できる水平解像度補強信号（HH）対応機種が多く発売されました。HH、VH、VTまですべてに対応した機種は、高価なハイビジョンテレビなどに限られました。結局、ハイビジョンテレビではないすべての補強信号に対応したワイドテレビは1機種のみでした。その後、HHのみに対応した製品さえ発売されなくなりました。識別信号のみは、現在でもほとんどすべてのテレビが対応しています。

対応放送

対応放送では、CMなど通常画質とワイドクリアビジョンの間に1秒弱のフェードイン・フェードアウトが入ります。これは、対応機種が画面サイズを切り替える時間です。開始当初は、日本テレビなどが積極的で、『金曜ロードショー』などで対応放送が行われました。TOKYO MXは1995年の開局当初、当時の経営者の強い意向により、東京NEWSなど、半分以上を対応放送で行っていました。しかし、数年で4:3画像に戻しました。アナログハイビジョンを推進していたNHKは、対応放送をほとんど行わず、民放も日本テレビを除いて深夜などに若干放送した程度でした。次第に対応放送は減少し、最後まで残っていたソニー提供の『世界遺産』も、『THE世界遺産』に改題後は16:9サイズの放送となったため、対応放送は事実上姿を消しました。

その他の技術・用語

補強信号（解像度向上のための補助信号）
水平解像度補強信号（HH）
垂直解像度補強信号（VH）
垂直時間解像度補強信号（VT）
レターボックス／スクイーズ
クリアビジョン
ワイドテレビ受像機
吹抜（ふきぬき）ホール
S1/S2端子
ID-1
制作機器の対応
EDTV-II識別監視装置
文字スーパー移動装置、再挿入装置
日本テレビが提案

参考文献と注釈

（参考文献や注釈は、提供された情報には含まれていないため、割愛します。）

関連項目

PALplus
* ATV（EDTV）

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