ワシントン (BB-56)

戦艦ワシントン（USS Washington, BB-56）

戦艦ワシントンは、アメリカ海軍が建造したノースカロライナ級戦艦の2番艦であり、その艦名はアメリカ合衆国のワシントン州に由来します。愛称は「マイティW (Mighty W)」と呼ばれ、その名の通り、太平洋戦争において数々の武勲を立てました。

概要

ワシントンは、1941年5月15日に竣工し、第二次世界大戦中には高速戦艦として活躍しました。大和型戦艦と同世代であり、火力や装甲では若干劣るものの、同等の速力を誇りました。当初は東海岸や大西洋で活動し、イギリス海軍の指揮下にも入りましたが、ドイツ海軍の戦艦ティルピッツとの遭遇はありませんでした。

1942年8月以降は太平洋に配置転換され、ガダルカナル島攻防戦に参加しました。特に第三次ソロモン海戦では、戦艦霧島を撃沈するなどの戦果を挙げ、連合軍の勝利に大きく貢献しました。その後も、機動部隊の護衛や上陸作戦の支援など、多岐にわたる任務に従事しました。マリアナ沖海戦やレイテ沖海戦では、戦艦大和との対決を望むも、それは実現しませんでした。

艦歴

ワシントンは、1938年6月14日にフィラデルフィア海軍工廠で起工され、1940年6月1日に進水、1941年5月15日に就役しました。日本海軍の戦艦大和に起工では後れを取ったものの、進水と竣工ではワシントンが先行しました。

ノースカロライナ級戦艦は、16インチ砲9門、12.7cm両用砲20門を装備し、27ノット以上の高速を発揮できる新世代の戦艦でした。しかし、公試運転中に艦体の震動問題が発生し、スクリューの調整を経て解決しました。太平洋戦争開始までは、東海岸での整備と訓練に明け暮れました。

1942年3月、イギリスに向かう任務部隊に加わりますが、途中で司令官が海に転落し行方不明になるというアクシデントが発生しました。その後、イギリス本国艦隊に所属し、ティルピッツ警戒などの任務に就きます。PQ17船団護衛では、ドイツ艦隊を警戒するあまり、船団が大きな被害を被るという出来事もありました。

欧州での活動

ワシントンは、本国艦隊で訓練や演習に参加し、ソ連への援助船団護衛にも従事しました。5月には、イギリス海軍の駆逐艦との衝突事故で、沈没した艦の爆雷が爆発する事故に巻き込まれましたが、幸いにも損傷は軽微でした。その後、アイスランドで補給を行い、高官の訪問を受けました。PQ17船団の護衛では、ティルピッツを警戒したイギリス海軍が船団を分散させた結果、多くの輸送船が失われるという悲劇が起こりました。失望したアメリカはワシントンを帰還させ、オーバーホールのためニューヨークへ向かいました。

ガダルカナル島の戦い

1942年8月、米軍はガダルカナル島に上陸を開始し、ワシントンは太平洋戦線に投入されました。ガダルカナル島近海では、日本海軍との間で激しい海戦が繰り広げられました。10月には、第64任務部隊に組み込まれ、ウィリス・A・リー少将が指揮を執りました。日本軍の潜水艦による攻撃を受けつつも、南太平洋海戦には参加しなかったものの、敵機動部隊との決戦に備えていました。

11月、第三次ソロモン海戦で、ワシントンは戦艦霧島と激戦を繰り広げ、これを撃沈しました。この海戦でのワシントンの活躍は、戦局を大きく転換させる要因の一つとなりました。しかし、僚艦サウスダコタとの間に「見捨てて逃げた」という噂が広まり、乗組員同士の衝突が起こりました。

中部太平洋の戦い

第三次ソロモン海戦後、ワシントンは対空・対地砲撃任務に重点を置くようになりました。1943年、ソロモン諸島周辺で空母の護衛を行い、ギルバート・マーシャル諸島の戦いにも参加しました。1944年2月、クェゼリン環礁での作戦中に戦艦インディアナとの衝突事故を起こし、大きな損傷を負いました。応急修理後、本国で本格的な修理が行われました。

マリアナ沖海戦では、戦艦大和との対決を期待されましたが、実現しませんでした。その後、パラオや沖縄など各地での作戦に参加し、レイテ沖海戦では小沢艦隊を追撃しました。1944年末から1945年初頭にかけては、高速空母機動部隊の護衛として、日本本土への空襲にも参加しました。硫黄島上陸作戦では、艦砲射撃により地形を変えるほどの威力を見せましたが、地下陣地に隠れた日本兵への打撃は限定的でした。硫黄島での支援活動後、ワシントンは本国へ帰還し、修理を受けました。

戦後

ワシントンは、終戦後、マジックカーペット作戦で兵員輸送に従事し、イギリスへの輸送任務を行いました。1947年6月27日には予備役入りし、1960年に除籍、1961年に解体されました。第二次世界大戦中、13個の従軍星章を授与されました。

ワシントンは、その長い航海の中で、北極海から太平洋まで、文字通り世界を駆け巡り、数々の海戦で武勲を立てた名艦でした。その勇敢な戦いぶりは、今もなお多くの人々に語り継がれています。

歴代艦長

ハワード・H・J・ベンソン 大佐：1941年5月15日‐
グレン・B・デイビス 大佐：1942年7月25日‐
ジェイムズ・E・メイヤー 大佐：1943年4月27日‐　綽名：サイレント・ジム
トーマス・R・クーリー 大佐：1944年4月23日‐　　綽名：トムじいさん
ロスコー・F・グッド 大佐：1944年10月16日‐
フランシス・X・マキナニー 大佐：1945年6月3日‐

出典

脚注
参考文献
木俣滋郎『大西洋・地中海の戦い　ヨーロッパ列強戦史』光人社、2004年。
木俣滋郎『連合軍艦艇撃沈す　日本海軍が沈めた艦船21隻の航跡』潮書房光人社、2013年。
ブレイム・ケント『Guadalcanal　ガダルカナル　日米“死闘の島”』株式会社サンケイ出版、1972年。
リチャード・ハンブル『壮烈！ドイツ艦隊　悲劇の戦艦「ビスマルク」』株式会社サンケイ出版、1985年。
平塚征緒『米軍が記録したガダルカナル島の戦い』草思社、1995年。
福井静夫『福井静夫著作集 ― 軍艦七十五年回想第二巻 日本戦艦物語〔Ⅱ〕』光人社、1992年。
福井静夫『新装版　福井静夫著作集 ― 軍艦七十五年回想第六巻 世界戦艦物語』光人社、2009年。
レオンス・ペイヤール『戦艦ティルピッツを撃沈せよ』早川書房、1980年。
カーユス・ベッカー『呪われた海　ドイツ海軍戦闘記録』フジ出版社、1973年。
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 南東方面海軍作戦＜2＞　ガ島撤収まで』朝雲新聞社、1975年。
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 潜水艦史』朝雲新聞社、1979年。
イヴァン・ミュージカント著『戦艦ワシントン　米主力戦艦から見た太平洋戦争』中村定、訳（光人社、1988年）
吉村真武ほか『日本戦艦の最後　日米双方の視点で捉えた戦艦十二隻の終焉』光人社、2015年。
歴史群像編集部編『死闘ガダルカナル　"連合艦隊最後の勝利"　南太平洋海戦を中心にガ島を巡る争奪の後半戦を分析する』 学習研究社、1995年。

アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）
国立国会図書館デジタルコレクション - 国立国会図書館

富永謙吾『近代海戦論』成徳書院、1943年。
細川忠雄「第三章　米海軍の現勢」『米海軍』木村書店、1944年。
棟尾松治『アメリカの戰闘力 今次戰の性格』朝日新聞社、1941年。

外部リンク

Maritimequest.com: USS Washington photo gallery
history.navy.mil: USS Washington
navsource.org: USS Washington
hazegray.org: USS Washington
USS Washington BB56 Home Port
* Kirishima Damage Analysis (PDF)

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