ワリンゴ

ワリンゴ（和林檎）

ワリンゴ（学名: Malus asiatica）は、バラ科リンゴ属の落葉小高木であり、その果実を指します。別名ジリンゴ（地林檎）とも呼ばれます。春には白から薄ピンク色の花を咲かせ、7月から9月にかけて直径3.5–5センチメートルほどの黄色から赤色の果実を実らせます。

特徴

ワリンゴは、高さ4–6メートルほどの落葉小高木です。若い枝は紫褐色で毛がありますが、後に無毛になります。芽は灰赤色で卵形をしており、最初は毛が密生していますが、後に無毛になります。

葉

葉は単葉で、托葉は披針形で縁に鋸歯があり、先端は尖っています。葉柄は1.5–5センチメートルで毛が生えています。葉身は卵形から楕円形で、長さ5–11センチメートル、幅4–5.5センチメートルです。基部は円形から広楔形で、葉縁には鋸歯があり、先端は鋭頭から鋭尖頭です。葉の裏面には密に毛が生えており、葉の表面は最初は有毛ですが後に無毛になります。

花

花期は4月から5月で、短枝の先端に4–7(–10)個の花からなる散形状の花序をつけます。苞は披針形で毛があり、先端は鋭尖形です。花柄は1.5–2センチメートルで、密に毛が生えています。花の直径は3–4センチメートルで、花托には密に毛があります。萼片は三角形から披針形で、長さ4–5ミリメートルで、花托よりもわずかに長く、両面に密に毛があります。花弁は白色からややピンク色で、倒卵形から長楕円形をしており、長さ0.8–1.3センチメートルです。雄しべは17–20本で、長さは不等で花弁より短いです。花柱は4–5本で、雄しべより長く、基部に綿毛があります。子房は下位で、4–5室に分かれており、各室は2個の胚珠を含んでいます。

果実

果期は7月から9月で、熟すと果皮は黄色から赤色になり、直径3.5–5センチメートル、卵形から亜球形をしています。果柄は1.5–2.5センチメートルで、軟毛があります。萼片は残存します。果肉には甘みもありますが、酸味や渋味が強いのが特徴です。貯蔵性は高くありません。

分布と起源

ワリンゴは中国原産で、主に中国北部から東部に分布しています。日当たりの良い斜面から平地の砂質土壌に生育します。朝鮮半島や日本にも導入され、古くから栽培されてきました。

ゲノム解析の結果から、カザフスタンなどに分布する Malus sieversii が中国北部に運ばれ、シベリアリンゴ (Malus baccata) と交雑することでワリンゴが生まれたと考えられています。一方、Malus sieversii は西へも運ばれ、ヨーロッパで Malus sylvestris と交雑することでセイヨウリンゴ（現在一般的な意味でのリンゴ; Malus domestica）が生まれました。

人間との関わり

中国では、ワリンゴは古くから「林檎」と表記されていました。この名は、果実を食べに鳥が集まることを示す「来禽」に由来するとも言われています。中国北部から東北部にかけて、果実利用のため古くから栽培され、様々な栽培品種が作られました。しかし、19世紀半ばにセイヨウリンゴが中国に導入されたことで、現在では商業的に生産されている「リンゴ」のほとんどはセイヨウリンゴとなっています。現在、中国ではワリンゴは「花红」や「沙果」、「文林郎果」と表記され、セイヨウリンゴは「苹果」や「蘋果」と表記されることが多いです。

日本における「林檎」の初出は、平安時代中頃の漢和辞典である『和名類聚抄』であり、「カラナシ（カリン）に似て小さい実をつけるもの」とされています。鎌倉時代には日本でも栽培されるようになり、室町時代には菓子（果物）の一つとして「林檎」が挙げられています。江戸時代には、ワリンゴは東北地方から九州まで一部の地域で栽培されるようになり、庶民の夏の果物として普及しました。

明治時代になると、日本政府はセイヨウリンゴの苗木を大量に欧米から導入し、全国に配布しました。これによりワリンゴの栽培は激減し、セイヨウリンゴが一般的に「リンゴ」と呼ばれるようになり、それまでの「リンゴ」はワリンゴまたはジリンゴと呼ばれるようになりました。

現在では、ワリンゴの栽培は激減しましたが、各地で保存・復活の試みがなされています。「高坂りんご」（長野県飯綱町）、「加賀藩在来」（石川県加賀地方）、「おおわに和りんご」（青森県大鰐町）、「リンキ」（青森県津軽地方）などが栽培されており、お盆の供え物などに用いられています。皇居の東御苑にもワリンゴが植えられています。滋賀県彦根市では、江戸時代から栽培されていた「彦根りんご」の復活を目指す活動が行われています。

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