ワルター・ヘンドル

ワルター・ヘンドル（Walter Hendl）は、1917年1月12日にこの世に生を受け、2007年4月10日に永眠したアメリカ合衆国の音楽家です。指揮者、作曲家、そしてピアニストとしてその才能を発揮し、特に名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツから厚い信頼を寄せられた共演者として広く認知されています。

ニュージャージー州ウェスト・ニューヨークにて生まれたヘンドルは、フィラデルフィアにある名門カーティス音楽院で、伝説的な指揮者フリッツ・ライナーに師事し、深い薫陶を受けました。音楽家としての道を歩み始めた彼は、まず1939年から1941年にかけて、ニューヨークシティのサラ・ローレンス・カレッジで教鞭を執り、教育者としてのキャリアもスタートさせています。続く1941年から1942年には、タングルウッド音楽祭の前身であるバークシャー・ミュージックセンターにて、セルゲイ・クーセヴィツキーのもとでピアニストおよび指揮者として研鑽を積みました。

指揮者としてのキャリアは順調に発展し、1945年にはニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の准指揮者に就任。その後、1949年から1958年までダラス交響楽団の音楽監督を務め、その手腕を発揮しました。また、NBC交響楽団の後継団体であるシンフォニー・オブ・ジ・エアとも深く関わり、1955年には同オーケストラの東アジア巡業の指揮者として招聘され、国際的な舞台でも活躍を見せました。さらに、1953年からはチャトーカ交響楽団の音楽監督を20年間にわたり務め、病気のため1972年に退任するまで、その発展に貢献しました。

師であるフリッツ・ライナーからの信頼も厚く、1958年には彼が音楽監督を務めるシカゴ交響楽団の准指揮者に任命され、1963年までその要職を務めました。この時期、彼はまた、1959年から1963年までラヴィニア音楽祭の初代芸術監督にも就任し、その草創期を支えました。シカゴを離れた後の1964年からは、教育者としての活動にも再び重点を置き、ニューヨーク州ロチェスターのイーストマン音楽学校の校長に就任（1972年まで）し、同時にロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団の芸術顧問および非常勤指揮者も兼務しました。

晩年には、1976年にペンシルベニア州のエリー・フィルハーモニックの音楽監督に就任。1990年にはエリーにあるマーシーハースト・カレッジの教授に着任し、後進の指導にあたりました。ワルター・ヘンドルは、2007年4月10日、ペンシルベニア州エリー郡ハーバークリーク・タウンシップにて、心臓発作と肺病のため、その波乱に満ちた生涯を閉じました。

ヘンドルは、特にソリストとの共演において「合わせ上手」として定評があり、その録音は多くの聴衆に愛されました。ヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツ、ヘンリク・シェリング、エリック・フリードマン、ピアニストのヴァン・クライバーン、ゲイリー・グラフマンなど、当代一流のソリストたちと共演した協奏曲の録音は、いずれもベストセラーとなり、商業的な成功を収めました。

一方で、彼は同時代の音楽、いわゆる現代音楽の擁護者としても重要な役割を果たしました。具体的には、1947年にピーター・メニンの《交響曲 第3番》のニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団による初演を指揮。1949年には、ボフスラフ・マルティヌーの《ピアノ協奏曲第3番》を、ルドルフ・フィルクシュニーの独奏、ダラス交響楽団との共演で初演しました。さらに、1954年にはエイトル・ヴィラ＝ロボスの《チェロ協奏曲2番》をアルド・パリゾの独奏、ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団との共演で初演するなど、数々の世界初演や米国初演を手がけています。1965年には、イーストマン音楽学校の学生を起用して、カバレフスキーの《レクイエム》の米国初演を指揮しました。

作曲家としては、さまざまな舞台のための劇付随音楽を手がけたほか、管弦楽のための編曲作品も残しており、彼の音楽的関心の幅広さを示しています。

ワルター・ヘンドルは、卓越した指揮技術とソリストへの細やかな配慮、そして新しい音楽への積極的な姿勢を兼ね備え、教育者としても多くの音楽家を育てました。その多角的な活動は、20世紀アメリカの音楽界において確固たる足跡を残しています。

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