ワーリー

ワーリ（Wālī）とは

ワーリ（Wālī）は、イスラム世界において知事に類する地方行政区画の首長を指す称号です。アラビア語に由来し、イスラム帝国やオスマン帝国を含む広範な地域で使用されてきました。ワーリが統治する区画は通常「ウィラーヤ」と呼ばれ、オスマン帝国では「ヴィライェト」として知られていました。現在でも、アラブやイスラム文化の影響を受けた一部の国で使用されています。

各国での用法

ワーリは、国によってその役割や意味合いが異なります。以下に、主な国におけるワーリの用法を紹介します。

アルジェリア

アルジェリアでは、ワーリは全国に58設置されている県（ウィラーヤ）の知事であり、地方行政の長として機能します。大統領によって選ばれ、地方行政を統括する重要な役割を担っています。

イラン

イランでは、「ヴァーリ」として知られ、歴史的に重要な州の領主や総督を指す言葉として用いられてきました。サファヴィー朝時代には、グルジアのカルトリ王国やカヘティ王国、クルド人のアルダラーン家、ロレスターンのアタベク、フーゼスターンのアタベクなど、各地の旧支配者が世襲のヴァーリとして認められました。これらのヴァーリは、サファヴィー朝の地方長官であるベイレルベイと同等の地位にありましたが、イラン本土の西側に位置し、対外防衛の重要な役割を担っていました。ガージャール朝時代には、グルジア諸国がロシアに併合されたことに伴い、世襲領主は中央政府の高官に置き換えられました。その後、ヴァーリは皇族と関連付けられる称号となり、例えば皇太子は伝統的に「アゼルバイジャン（イラン）のヴァーリ」の称号を保持していました。

オスマン帝国

オスマン帝国では、ヴァリは最も一般的な知事の称号であり、フランス語では「gouverneur-général（総督）」と訳されます。地方行政の単位であるヴィライェトの長として、行政を司りました。また、軍の長としても機能し、しばしば「パシャ」とも呼ばれました。オスマン帝国の行政区画は、歴史的な変遷を経ており、その詳細は関連する記事で解説されています。

オマーン

かつてオマーンのスルタンは、ケニアのモンバサを支配した際、この都市にワリを任命しました。ワリは地元では「リワリ（LiWali）」として知られていました。現代のオマーンでは、11のムハーファザの下に62のウィラーヤ（州）が置かれており、各ウィラーヤの長はワリと呼ばれています。

モロッコ

1997年の再編により、モロッコ全土は16の地域（region）に分けられ、国王から任命されたワーリがその首長となりました。しかし、2011年のモロッコ憲法改正国民投票に伴う分権化政策により、ワーリの権限は地方議会の長に譲渡されました。

パキスタン

パキスタンでは、ワリは1969年まで存在していた半自治国家スワートの支配者の称号でした。

フィリピン

フィリピンのミンダナオ島南部に位置するバンサモロ自治地域では、儀礼上の首長としてワリが置かれています。ワリは実権を持たないものの、各種の儀式で重要な役割を果たし、自治政府の首相の助言に基づいて議会の解散・招集を行うなど、地域全体の象徴的な存在として機能しています。

トルコ

トルコでは、ヴァリは81県で構成される地方行政区画を管轄する県知事の称号です。官僚の中から内務大臣によって指名され、大統領によって任命されます。1987年から2002年まで、北クルディスタン地域に非常事態地域知事（Olağanüstü Hâl Bölge Valiliği）という上級ヴァリが置かれ、複数の県知事を調整・監督する役割を担っていました。

関連項目

知事
総督

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