ロレスターン

ロレスターン：ザグロス山脈に抱かれた歴史と文化

イラン南西部のザグロス山脈南部に広がるロレスターン（ルリスタンとも呼ばれる）は、古くからロル族が生活の拠点を築いてきた地域です。ロレスターンという名称は「ロル族の国」を意味し、その地理的範囲はイラン南西部の山岳地帯と周辺の平原部に及び、現在のロレスターン州よりも広い地域を包含します。ケルマーンシャー、エスファハーン、シーラーズ、アフヴァーズといった主要都市を結ぶ交通の要衝であり、テヘランとペルシア湾沿岸部を繋ぐ道路と鉄道が走り、古くから東西交易の中継地として重要な役割を担ってきました。

ロレスターンの自然環境

ロレスターンは標高1600メートル前後の山々が連なり、深い渓谷が複雑に入り組んだ地形をしています。ザーヤンデルード川、カールーン川、カルケ川などイランを代表する河川の源流はこの地域にあり、山地と山地の間には平原や低い丘陵が広がっています。この多様な地形は、ロル族の人々の生活様式や文化に大きな影響を与えてきました。

ロレスターンの信仰

ロレスターンの住民の大半は十二イマーム派のイスラム教徒ですが、スンナ派やヤルサン教（アフレ・ハック）を信仰する少数派も存在します。興味深いことに、ロレスターンでは外部のイスラム世界とは異なる独自の信仰や儀式が観察されており、19世紀にはこれらの信仰を改宗させるため、政府から指導者が派遣されたという歴史もあります。このことは、ロレスターンが独自の文化圏を形成していたことを示唆しています。

ロレスターンの歴史：古代から近現代まで

ロレスターンは古代エラム文化圏に属し、サーサーン朝時代の遺跡なども数多く発見されています。しかし、ロル族の歴史や地方史については不明な点が多く、12世紀以降、大ロルと小ロルという地方政権が出現してから、ロル族の社会が外部の世界で認識されるようになりました。

考古学的調査によると、紀元前7千年紀にはすでに新石器時代の集落が存在し、住民は狩猟、採集、漁業、牧畜、農耕を営んでいました。しかし、紀元前4千年紀末までにこれらの集落は衰退し、その原因としては気温の低下や土壌の変化などが考えられています。

また、1928年頃からイラン国内で盗掘された青銅器が海外に流出し、「ルリスタン青銅器」として知られるようになりました。これらの青銅器は、ケルマーンシャー付近から出土したと伝えられていますが、正確な制作年代や制作民族は不明です。

紀元前312年から紀元前63年のセレウコス朝時代には、ロレスターンに都市や村落が再び建設されます。12世紀以降は、デズ川を境界として大ロルと小ロルに分かれ、大ロルはハザーラスプ朝、小ロルはホルシード朝が支配しました。これらの王朝は、15世紀から16世紀にかけてティムール朝やサファヴィー朝に征服されましたが、ホルシード朝の王族はサファヴィー朝の下でロレスターンの統治を任されるなど、複雑な政治的変遷を繰り返しました。

10世紀のトゥルクマーンの侵入、13世紀以降のモンゴル帝国やティムール朝の侵略によって、ロレスターンの住民はしばしば遊牧生活を余儀なくされました。しかし、1922年から1933年にかけて、イラン政府は遊牧民の定住化政策を推進し、レザー・シャーの時代にはロレスターンの住民は定住生活への転換を強いられました。

ロレスターンの歴史は、複雑で未解明な部分も多く、今後の研究が待たれます。しかし、その険しい地形と豊かな歴史は、多くの謎と魅力を秘めており、今後も人々を魅了し続けることでしょう。

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