ヴァルトラウト・マイアー

ヴァルトラウト・マイヤー（Waltraud Meier）は、1956年1月9日にドイツのヴュルツブルクで生まれた、国際的に高く評価されるメゾソプラノ歌手です。グラミー賞受賞歴を持ち、ウィーン国立歌劇場およびバイエルン国立歌劇場の双方から宮廷歌手（Kammersangerin）の称号を授与されています。また、フランス政府からは芸術文化勲章コマンドゥールを受勲するなど、その功績は広く認められています。

マイヤーは、特にリヒャルト・ワーグナーのオペラにおける役柄、例えば『パルジファル』のクンドリー、『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデ、『ローエングリン』のオルトルート、『タンホイザー』のヴェーヌス、『ワルキューレ』のフリッカなどで絶大な支持を得ています。しかし、その活躍はワーグナーに留まらず、『ドン・カルロ』のエボリ公女、『アイーダ』のアムネリス、『カルメン』のタイトルロール、『カヴァレリア・ルスティカーナ』のサントゥッツァといったフランスやイタリアのオペラでも成功を収め、その幅広いレパートリーと表現力の豊かさを示しています。

幼少期から合唱団で歌っていたマイヤーは、中等教育修了後に英語とロマンス諸語を学びながら、ディートガー・ヤーコプ教授のもとで声楽の研鑽を積みました。1976年に声楽家としての道に進むことを決意し、同年、ヴュルツブルク歌劇場での『カヴァレリア・ルスティカーナ』ローラ役でデビューを果たしました。その後、1976年から1978年にかけてマンハイム国民劇場で定期的に出演し、経験を積んでいきました。

国際的なキャリアの幕開けは1980年、ブエノスアイレスのコロン劇場での『ワルキューレ』フリッカ役でした。この後、ドルトムント、ハノーファー、シュトゥットガルトといったドイツ国内の主要な歌劇場で活躍の場を広げます。キャリアにおける決定的な転機となったのは、1983年のバイロイト音楽祭における『パルジファル』のクンドリー役でした。この成功により、彼女の国際的な名声は一気に高まり、コヴェント・ガーデン（1985年）やメトロポリタン歌劇場（1987年）といった世界の著名な歌劇場へのデビューが続きました。特にメトロポリタン歌劇場では、ジェームズ・レヴァイン指揮のもとフリッカ役で初出演しています。スカラ座やパリ国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場でもデビューし、1983年から1993年にかけてはバイロイト音楽祭にクンドリー役として定期的に出演しました。1989年には、NHKによって世界初のハイビジョン収録が行われたバイエルン国立歌劇場の『ニーベルングの指環』でヴァルトラウテ役を演じています。

1990年代に入ると、マイヤーはクンドリー役をバイロイトだけでなく、リッカルド・ムーティ指揮によるスカラ座公演やセミヨン・ビシュコフ指揮によるパリ公演など、世界各地で歌い続けました。メトロポリタン歌劇場では、1992年にジェームズ・レヴァイン指揮の『パルジファル』でクンドリーとして出演し、「ニューヨーク・タイムズ」から「賞賛すべき演奏」と評されました。翌年、同劇場で『カヴァレリア・ルスティカーナ』のサントゥッツァを歌った際も、「ニューヨーク・タイムズ」は彼女の歌唱と演技を「素晴らしかった」「注目すべき劇的存在」と絶賛しています。この時期、マイヤーはドラマティック・ソプラノのレパートリーにも挑戦を始めます。1993年から1999年には、バイロイト音楽祭でハイナー・ミュラー演出、ダニエル・バレンボイム指揮の『トリスタンとイゾルデ』でイゾルデ役を主要な役としました。さらに1998年には、シカゴ・リリック・オペラでバレンボイム指揮の『フィデリオ』のレオノーレ役、バイエルン国立歌劇場の新プロダクションで『ローエングリン』のオルトルート役を演じ、表現の幅を広げました。

2000年代もその活躍は続き、2000年にはバイロイト音楽祭の「ミレニアム・リング」で、ジュゼッペ・シノーポリ指揮、プラシド・ドミンゴ共演の『ワルキューレ』でジークリンデ役を演じました。同年にはザルツブルク音楽祭でもロリン・マゼール指揮のもとイゾルデ役を務めています。2001年にはミュンヘン・オペラ・フェスティバルで、ズービン・メータ指揮によるベルリオーズの『トロイアの人々』でディオン役を初めて歌いました。2003年には、ダニエル・バレンボイム指揮による『タンホイザー』（ヴェーヌス役）の録音がグラミー賞のベストオペラ録音部門を受賞するという栄誉に輝きました。2003-2004年のシーズンはリサイタルやコンサートに重点を置き、バッハの『マタイ受難曲』や、ブラームス、シューベルト、フーゴー・ヴォルフなどの歌曲プログラムでヨーロッパ各地やアメリカ合衆国を巡るツアーを行いました。

2004-2005年には再びオペラの舞台に戻り、ドレスデン・ゼンパー・オーパーでの『カルメン』新プロダクションに出演。2005年にはピーター・セラーズ演出、エサ＝ペッカ・サロネン指揮によるパリのオペラ・バスティーユ新プロダクションで再びイゾルデ役を演じ、ウィーン国立歌劇場でもクンドリー役で復帰しました。2006年にはメトロポリタン歌劇場にクンドリー役で戻り、ベン・ヘップナーと共演。「ニューヨーク・タイムズ」はこの公演でのマイヤーについて、「舞台上でも舞台を離れても情熱的なことで知られる彼女はこの役と相性が良く、自身を大口径の高性能爆薬の砲弾のように役へと駆り立てた」と、その圧倒的な存在感と表現力を絶賛しました。2007年にはイゾルデ、レオノーレ、オルトルート役で世界各地に出演し、フランツ・シューベルトとリヒャルト・シュトラウスの歌曲集CDをヨーゼフ・ブラインル伴奏でリリースしました。マイヤーとブラインルは2007年から2008年にかけて、日本を含む各地で数多くのリサイタルを開催しました。2008年にはバーデンバーデンの『タンホイザー』でヴェーヌス役を演じ、「ニューヨーク・タイムズ」は「深い力と狂気をたたえた音楽家、マイヤー女史は完璧なヴェーヌスだった」と報じるなど、その円熟した歌唱は常に高い評価を得ています。

ヴァルトラウト・マイヤーは、半世紀以上にわたるキャリアの中で、そのドラマティックな声と強烈な演技力によって、特にワーグナー作品における究極的な歌手の一人として、そしてオペラ史に残る名歌手としてその地位を不動のものとしています。

ディスコグラフィ（一部）



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