ヴィクター・ハーバート

ヴィクター・ハーバート（Victor August Herbert, 1859年 2月1日 – 1924年 5月26日）は、アイルランドに生まれ、アメリカ合衆国に帰化した作曲家、指揮者、そして傑出したチェリストであった。彼は、後にミュージカルへと発展する初期の舞台作品、いわゆるライト・オペラの作曲家として大衆的な成功を収めた一方で、本格的な芸術音楽の分野でも重要な作品を残している。また、現代の音楽著作権保護に不可欠な存在である米国作曲家作詞家出版者協会（ASCAP）の設立にも深く関わった人物としても歴史に名を刻んでいる。

生涯と活動

ハーバートはイギリス領ガーンジー島で生を受けた。3歳で父を失い、劇作家であった祖父のもとで育ち、幼い頃からその創作の才能を認められ、励ましを受けたという。しかし、母親がドイツ人医師と再婚したため、正式な音楽教育を受けるまでには時間を要した。その後、シュトゥットガルト音楽院で学び、チェロ奏者として頭角を現した。ウィーンでは「ワルツ王」として名高いヨハン・シュトラウス2世の楽団員として活動した。

1886年、歌手であった夫人とともにアメリカへ渡り、メトロポリタン歌劇場管弦楽団の首席チェリストの地位を得た。夫人は、ヴェルディのオペラ『アイーダ』のアメリカ初演で主役を演じるなど、歌手としても活躍した。

アメリカでのキャリアは多岐にわたる。1892年には、有名なパトリック・ギルモアの後任として、ニューヨーク州兵第22師団軍楽隊の指揮者に就任し、指揮者としての活動領域を広げた。1898年から1902年にかけては、ピッツバーグ交響楽団の音楽監督を務め、オーケストラをアメリカを代表する楽団の一つへと成長させ、ニューヨークやシカゴへの演奏旅行を成功に導いた。1907年には自身でオーケストラを設立し、長年にわたり避暑地などで管弦楽曲の小品を演奏する活動を行った。

作曲家としての業績

ハーバートは非常に多作な作曲家であり、その作品は幅広いジャンルに及ぶ。生涯で2つのオペラ、43のオペレッタ、10の劇付随音楽、31の管弦楽曲、9つの吹奏楽曲、9つのチェロ曲（2つのチェロ協奏曲を含む）、5つのヴァイオリン曲、22のピアノ曲、1つのカンタータ、54の歌曲、12の合唱曲を残しており、他者の作品のオーケストラ編曲も手掛けている。

中でも、ライト・オペラや初期ミュージカルの分野で特に人気を博した。1894年に最初のオペレッタ『アナニヤ王子（嘘つき王子）』を発表して以来、『セレナード』や『占い師』などの成功作を生み出した。20世紀に入ると、『おもちゃの国の赤ん坊たち』（1903年）、『マドモワゼル・モディスト』（1905年）、『赤い水車』（1906年）、『お転婆マリエッタ』（1910年）などが次々とヒットし、アメリカの音楽界における彼の地位を確固たるものとした。これらのオペレッタは、現代においても専門の団体や、時には大規模なオペラハウスで上演・録音されており、その魅力は今なお失われていない。彼の音楽スタイルは、同時代のラグタイムやディキシーランドの影響をわずかに受けてはいるものの、後のジャズ・エイジの作曲家たち（ジョージ・ガーシュウィンやコール・ポーターなど）ほどジャズやブルースに深く根差したものではなかった。

ハーバートはまた、本格的な芸術音楽の分野でも重要な作品を創作している。特に『チェロ協奏曲第2番ホ短調』作品30（1894年）は、生前は十分な評価を得られなかったが、近年その価値が見直され、再評価が進んでいる。この作品が、後に書かれたドヴォルザークの傑作『チェロ協奏曲ロ短調』に影響を与えたという説も知られるようになった。このほか、『アイルランド狂詩曲』（1893年）、『ロマンティックな組曲』作品31（1900年）、マクダウェルを思わせる標題音楽『森の国の幻想』（1902年）や『コロンブス』（1903年）、連作交響詩『ヘーローとレアンドル』作品33（1900年ごろ）など、充実した管弦楽曲を残している。これらの作品は、彼の優れた管弦楽法の手腕を示しており、チャイコフスキー、ボロディン、ゴルトマルク、リヒャルト・シュトラウスといった同時代の大家に比肩しうるものと評価されている。

ASCAPの設立

20世紀初頭の約20年間、ハーバートは作曲家たちが自らの作品から正当な収益を得られる権利を確立するため、精力的に活動した。ジョン・フィリップ・スーザやアーヴィング・バーリンといった著名な音楽家たちと協力し、1914年に米国作曲家作詞家出版者協会（ASCAP）を共同で設立した。この組織は、音楽家や作詞家、出版社の著作権を保護することを目的としており、ハーバートは設立後10年間にわたり副総裁を務めた。ASCAPは現在も、音楽クリエイターたちの権利保護に重要な役割を果たしている。

ヴィクター・ハーバートは、大衆的なライト・オペラと本格的な芸術音楽の両分野で成功を収め、さらに音楽家の権利擁護に貢献した多才な人物として、アメリカ音楽史において重要な地位を占めている。

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