ヴィシュキ・ヤーノシュ

ハンガリーの作曲家ヴィシュキ・ヤーノシュ（ハンガリー語: Viski János, 1906年 6月10日 - 1961年 1月16日）は、20世紀ハンガリー音楽界において、教育者としても重要な役割を果たした人物です。

幼少期と音楽教育

ヴィシュキ・ヤーノシュは1906年、当時ハンガリー領だったコロジュヴァール（現在はルーマニア領クルージュ＝ナポカ）の、比較的裕福な地主の家庭に生を受けました。家業の農業を継ぐことが期待されていたため、音楽の道に進むことは容易ではありませんでした。しかし、彼は幼い頃から音楽への強い関心を示し、ヴァイオリンの演奏に熱心に取り組みます。その才能は早くから開花し、19歳になる頃にはソロリサイタルを3回開催するなど、演奏家としての片鱗も見せていました。

ヴァイオリン演奏と並行して、作曲への情熱を深めていったヴィシュキは、1927年、21歳でリスト音楽院（フランツ・リスト音楽大学）に入学することを決意します。農業事業の傍らでの勉学でしたが、そこで彼はハンガリーを代表する作曲家であり民族音楽研究家であるコダーイ・ゾルターンに師事するという恵まれた機会を得ます。コダーイの下で、彼は1932年に卒業するまでの5年間、集中的に作曲技法を学びました。音楽院での専門的な学習に加え、彼はエトヴェシュ・ロラーンド大学でも哲学と美術史という異なる分野の学問にも触れ、幅広い教養を身につけています。1932年に音楽院を卒業すると、ヴィシュキは生まれ故郷に戻りました。

作曲活動と評価

故郷に戻ったヴィシュキは、家業である農業経営に携わりながらも、作曲活動を精力的に続けました。彼の最初の重要な作品は、郷里で作曲された交響曲でした。この交響曲は、1937年にヴィクトル・ヴァジーの指揮によってハンガリー・ラジオで初演され、国内で注目を集めました。さらに、1939年にブダペストで開催されたコンサートで、著名なオランダ人指揮者ウィレム・メンゲルベルクがブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団を率いてこの交響曲を演奏したことで、その評価は確固たるものとなりました。この演奏会後、彼の交響曲はヨーロッパ各地で紹介され、ヴィシュキ・ヤーノシュの名は国際的に知れ渡る契機となります。

同年（1939年）には、ハンガリーの詩人バラッシ・バーリントの詩から着想を得て、交響詩『エニグマ』を生み出しました。この作品も彼の代表作の一つと見なされています。

教育者としての功績と晩年

作曲家としての活動に加え、ヴィシュキ・ヤーノシュは教育者としても音楽界に貢献しました。1941年には、クルジュ＝ナポカ音楽演劇院（現在のトゥルグ・ムレシュ芸術大学）の院長に就任し、教育行政にも関わります。そして1942年からは、ハンガリー音楽教育の中枢であるブダペスト音楽院で作曲科教授として教鞭を執るため、活動拠点をブダペストに移しました。

ブダペスト音楽院では、彼は多くの若い才能の育成に尽力しました。その教え子の中には、国際的に活躍する指揮者・作曲家となったエトヴェシュ・ペーテルなど、後のハンガリー音楽界を担う重要な人物たちが名を連ねています。厳しさと愛情をもって生徒たちを指導し、彼らの創造性の開花を促しました。

作曲家として、そして教育者として精力的に活動を続けたヴィシュキ・ヤーノシュは、その功績が認められ、数々の栄誉に浴しています。

受賞・栄典

キスファルディ協会グレグス・パール記念メダル（交響詩『エニグマ』に対して）
1954年：フェレンツ・エルケル賞
1955年：ハンガリー功労芸術家賞
1956年：コシュート賞

主な作品

交響組曲
ヴァイオリン協奏曲
ピアノ協奏曲
チェロ協奏曲
バリトンと管弦楽のためのバラード
合唱曲、歌曲など

ヴィシュキ・ヤーノシュは1961年 1月16日に54歳で亡くなりました。短い生涯ではありましたが、残された作品と、彼が育成した多くの音楽家たちを通して、その功績は今なおハンガリー音楽史に刻まれています。

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