ヴィリとヴェー

ヴィリとヴェー：北欧神話における謎多き兄弟神

北欧神話において、オーディンと共に創造に関わったとされる兄弟神、ヴィリとヴェー。彼らは、様々な文献で異なる役割や記述が見られることから、その実像は謎に包まれています。本稿では、主要な神話文献を基に、ヴィリとヴェーの役割と、それらを取り巻く解釈上の問題点を探ります。

『エッダ』におけるヴィリとヴェー

『スノッリのエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』では、ヴィリとヴェーは、最初の神ボルと巨人女性ベストラの息子として、オーディンと共に、最初の巨人ユミルを殺害し、その遺体から世界を創造したと記されています。さらに、彼らはオーディンと共に、海岸で発見した二本の木から、最初の人間であるアスクとエムブラを創造したとされています。この際、オーディンが命と魂を与えたのに対し、ヴィリは知性と行動力、ヴェーは五感を付与したとされています。

しかし、『古エッダ』の『巫女の予言』では、人間創造に携わったのはオーディン、ヘーニル、ローズルとされており、『ギュルヴィたぶらかし』とは登場人物が異なります。この食い違いについて、スノッリ・ストゥルルソンは、『巫女の予言』におけるヘーニルとローズルを、それぞれヴィリとヴェーの別名とみなした可能性が指摘されています。

また、『ロキの口論』では、オーディンの妻フリッグがヴィリとヴェーとの性的関係を持ったという、興味深い記述も見られます。これにより、ヴィリとヴェーが単なる創造神以上の存在、あるいは神格の側面を持つ存在であった可能性を示唆しています。

『ユングリング家のサガ』におけるヴィリとヴェー

スノッリ・ストゥルルソンによる『ユングリング家のサガ』では、ヴィリとヴェーはオーディンの兄弟として、アシアの東にあるアーサランドの支配者として描かれています。オーディンが国外へ旅立った間、彼らは国を治めていたものの、オーディンの帰国が長引いたため、彼らはやむを得ずオーディンの財産を分割し、妻であるフリッグを共有するに至ります。しかし、オーディンは最終的に帰国し、フリッグを取り戻します。その後、オーディンは神殿司祭らと共にアーサランドを離れ、ヴィリとヴェーはアーサランドに留まったとされています。

この記述は、『エッダ』におけるヴィリとヴェーの役割とは大きく異なり、彼らの政治的な側面を強調しています。兄弟神としての関係性だけでなく、支配者としての側面も持ち合わせていたことが示唆されています。

ヴィリとヴェーについての解釈

『エッダ』と『ユングリング家のサガ』におけるヴィリとヴェーの役割の違い、そして『古エッダ』と『スノッリのエッダ』の記述の相違は、解釈の余地を残しています。ヴィリとヴェーは、同一の存在なのか、それとも異なる存在なのか、あるいは複数の神格の集合体なのか。彼らの真の姿は、現存する文献だけでは解明することは困難です。

また、ヘーニルとローズルとの関係性も謎の一つです。別名と仮定する説以外にも、ヴィリとヴェーがそれぞれヘーニルとローズルの複合神であるとする説や、まったく別の神格とする説など、様々な解釈が存在します。

結論

ヴィリとヴェーは、北欧神話における重要な神々ですが、その役割や実態は、文献間の食い違いや解釈の違いから、未だに謎に包まれています。彼らの存在は、北欧神話の複雑さと多様性を象徴しており、今後も研究者たちの議論を呼ぶ存在であり続けるでしょう。更なる研究と考察によって、彼らの真の姿に迫ることが期待されます。

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