ローズル

ローズル：北欧神話における謎めいた神

北欧神話に登場する神、ローズル(古ノルド語: Lóðurr)は、その存在が謎に包まれた神です。文献への登場回数が少なく、その役割や性質は明確には記述されておらず、様々な解釈が生まれています。本稿では、既存の文献に基づき、ローズルに関する知見を整理し、その謎に迫ります。

人間の創造におけるローズルの役割

ローズルが最も明確に記述されているのは、『古エッダ』の『巫女の予言』です。この神話において、ローズルはオーディンとヘーニルと共に、最初の男女であるアスクとエムブラを創造したとされています。オーディンが息を吹き込み、ヘーニルが心を与えたのに対し、ローズルはアスクとエムブラに生命と美を与えたと記されています。この記述から、ローズルは生命の創造と美しさに関連する神であることが推測されます。

スカルド詩におけるローズル

10世紀と12世紀の[スカルド詩]]には、「ローズルの友(Lóðurrs vinr)」という表現が登場します。これはオーディンを指すケニング]と解釈されています。このことは、ローズルが[[オーディンと何らかの関係を持つことを示唆しています。しかし、その関係性については明確な記述がなく、依然として謎のままである点は否めません。

スノッリ・ストゥルルソンの記述と解釈

アイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンは、『スノッリのエッダ』において、世界の創造者としてオーディン、ヴィリ、ヴェーの三神を挙げています。この記述は、『巫女の予言』における三神と共通点が見られますが、スノッリ・ストゥルルソンはヘーニルとローズルについて詳細な記述をしていません。これは、ローズルに関する情報が、スノッリ・ストゥルルソンが記述した時点ですでに失われていた、あるいは、彼が意図的に省略した可能性を示唆しています。また、神々の系譜よりも、神々の行動に着目していた可能性も考えられます。

ローズルの正体に関する諸説

ローズルの正体については、様々な説が提唱されています。

ロキとの同一性: 20世紀前半の研究では、ローズルはロキの別名ではないかとする説がありました。「ローズルの友」というケニングと、オーディンに関する別のケニング「ロプトの友」(ロプトはロキの別名)の類似性、ルーン文字表記の類似性などが根拠として挙げられていました。しかし、人間の創造者としてのローズルの役割はロキの性格とは全く合致しないため、この説は現在では支持されていません。

フレイとの同一性: ローズルという名が、古ノルド語で「豊穣、収穫」を意味するlódに由来するという説に基づき、ローズルは豊穣の神フレイの異名ではないかとする説も存在します。しかし、この説についても決定的な証拠はなく、あくまで可能性の一つにとどまっています。

結論

ローズルは、北欧神話においてその存在が曖昧な神です。『巫女の予言』に登場するものの、その後の文献ではほとんど言及されておらず、その役割や性質は依然として謎に包まれています。ロキやフレイとの同一性も示唆されていますが、決定的な証拠はなく、今後の更なる研究が待たれるところです。ローズルは、北欧神話研究における未解明な部分を示す、興味深い存在と言えるでしょう。

参考文献

Yvonne S. Bonnetain: Der nordgermanische Gott Loki aus literaturwissenschaftlicher Perspektive. Dissertation, Universität Tübingen 2005.
Ludwig Rübekeil: Diachrone Studien zur Kontaktzone zwischen Kelten und Germanen. Wien 2002.
Franz Rolf Schröder: Die Göttin des Urmeeres und ihr männlicher Partner. In: Helmut de Boor, Ingeborg Schröbler (Hrsg.): Beiträge zur Geschichte der deutschen Sprache und Literatur.. Band 1960, Heft 82.
Rudolf Simek: Lexikon der germanischen Mythologie. 3. Auflage. Stuttgart 2006.
* Jan de Vries: Altgermanische Religionsgeschichte. 2 Bände. De Gruyter, Berlin, New York 1970.

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