ヴィンセント・パーシケッティ

アメリカ合衆国の作曲家、ピアニスト、指揮者、そして音楽教育家として、ヴィンセント・ラドウィグ・パーシケッティ（1915年6月6日 - 1987年8月14日）は、20世紀後半のアメリカ音楽界において特筆すべき存在です。

若き日々から教育者へ

ペンシルベニア州フィラデルフィアにイタリア系の家系として生まれたパーシケッティの家族に音楽家はいませんでしたが、彼は幼い頃から並外れた音楽的才能を発揮しました。わずか5歳でコムズ音楽大学に入学し、早くも本格的な音楽教育を受け始めます。この大学ではピアノ、オルガン、コントラバスといった複数の楽器を習得する傍ら、ラッセル・キング・ミラーのもとで音楽理論と作曲の基礎を深く学びました。

その後、フィラデルフィア音楽院に進学し、更なる研鑽を積みます。作曲をロイ・ハリスらに、指揮法をフリッツ・ライナーに、そしてピアノをオルガ・サマロフにと、当時の音楽界を代表する名教師たちから指導を受けました。これらの経験は、パーシケッティが多才な音楽家として成長する上で非常に大きな影響を与えました。

パーシケッティは作曲家としてだけでなく、熱心な教育者としてもその才能を発揮しました。1935年から1962年までの長きにわたり、母校であるコムズ音楽大学とフィラデルフィア音楽院の両校で作曲科の主任教授を務め、後進の指導に力を注ぎました。そして1962年からは、世界の最高峰の音楽教育機関の一つであるニューヨークのジュリアード音楽院に移り、その教壇に立ちました。ジュリアードでは作曲科の教授として、後に著名な音楽家となる多くの才能を育てました。彼の薫陶を受けた学生の中には、ミニマル・ミュージックで知られるフィリップ・グラス、ユニークな作品で人気を博したピーター・シックリー（P. D. Q. バッハ）、指揮者のジェームズ・デプリースト、日本の現代音楽を牽引した一柳慧など、錚々たる顔ぶれが並びます。教育者としてのパーシケッティの影響力は計り知れません。

多様な作品群と「パラブル」シリーズ

パーシケッティの創作活動は非常に幅広く、管弦楽曲、吹奏楽曲、室内楽曲、鍵盤楽器のための作品、声楽曲など、多岐にわたるジャンルに数多くの作品を残しました。彼の音楽スタイルは、伝統的な形式と現代的な語法を巧みに融合させたものであり、常に新しい表現を追求していました。

特に彼の作品群の中で特徴的なのは、「パラブル（Parable）」と題された25曲からなるシリーズです。「パラブル」は「たとえ話」や「寓話」を意味し、このシリーズは1965年から1986年にかけて作曲されました。各作品は、特定の楽器やアンサンブルのために書かれており、その編成の多様性が最大の特色です。フルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、アルトサックス、ピッコロ、クラリネット、トランペット、イングリッシュホルン、ヴィオラ、コントラバス、トロンボーン、ピアノ、ギター、チューバ、ハープシコードといった独奏楽器のための作品から、金管五重奏、弦楽四重奏、ピアノ三重奏、2つのトランペットといった室内楽、さらには吹奏楽、カリヨン、オルガン、そしてオペラ（パラブル第20番）まで含まれています。このシリーズは、それぞれの楽器の特性や表現の可能性を深く探求しており、パーシケッティの探求心と創造性の豊かさを示す好例と言えます。

また、交響曲も9曲作曲しており、特に吹奏楽のために書かれた交響曲第6番 作品69は、吹奏楽の分野において重要なレパートリーとして広く演奏されています。鍵盤楽器のための作品も多く、12曲のピアノソナタや9曲のハープシコードソナタがあります。中でもピアノソナタ第12番『鏡のソナタ』作品145は、両手の動きが完全に鏡像になるという書法上の実験が試みられています。吹奏楽曲では『ディヴェルティメント』作品42などもよく知られています。

遺産

ヴィンセント・パーシケッティは、多才な作曲家として革新的な作品を生み出し、同時に情熱的な教育者として多くの優れた音楽家を育て上げました。その広範かつ多様な創作活動と、音楽教育への貢献は、彼を20世紀アメリカ音楽史における重要な人物たらしめています。彼の音楽は今日でも世界中で演奏され、多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索