ヴェーターラ・パンチャヴィンシャティカー

『ヴェーターラ・パンチャヴィンシャティカー』、通称『屍鬼二十五話』は、古代インドで生まれた説話集です。この物語は、現存しない幻の大説話集『ブリハット・カター』を基に、詩人ソーマデーヴァが『カター・サリット・サーガラ』として再編したものの第12巻にあたります。

物語は、ヴェーターラという死に取り憑いた悪鬼が、トリヴィクラマセーナ王に25の不思議な物語を聞かせるという形式で進行します。各話の終わりに、ヴェーターラは王に難解な問答を仕掛けます。トリヴィクラマセーナ王は、その全てに見事に答え、最終的にシヴァ神にその知性と勇気を認められ、ヴィディヤーダラ族の転輪聖王となるのです。

以下は、物語を構成する25話のタイトルです。

1. 第1話「烙印をおされた少女」
2. 第2話「娘一人に婿三人 彼女の灰を抱いていた男」
3. 第3話「男が悪いか女が悪いか」
4. 第4話「息子を犠牲にした忠臣」
5. 第5話「娘一人に婿三人 ソーマプラバーの場合」
6. 第6話「すげかえられた首」
7. 第7話「海中都市（1）」
8. 第8話「デリケートな兄弟」
9. 第9話「王女と四人の求婚者」
10. 第10話「三人の男と約束した女」
11. 第11話「デリケートな王妃たち」
12. 第12話「海中都市（2）」
13. 第13話「バラモンを殺したのは誰か」
14. 第14話「盗賊を愛した少女」
15. 第15話「ムーラデーヴァと性転換の秘薬」
16. 第16話「ジームータヴァーハナの捨身」
17. 第17話「侮辱された女の復讐」
18. 第18話「呪法に失敗した師弟」
19. 第19話「三人の父親を持った王」
20. 第20話「生贄の少年はなぜ笑ったか」
21. 第21話「焦がれ死にした女」
22. 第22話「ライオンを再生した兄弟」
23. 第23話「青年の死体にのりうつった行者」
24. 第24話「父が娘を、息子が母を妻にした場合」
25. 第25話「大団円」

『ヴェーターラ・パンチャヴィンシャティカー』は、サンスクリット語のみならず、様々な言語に翻訳され、世界各地に伝播しました。チベット語版は『屍鬼故事』、モンゴル語版は『シッディ・クール』として知られています。近代インドの各言語にも翻訳され、ヒンディー語版は『バイタール・パチーシー』と呼ばれています。漢語圏では『僵屍鬼故事』とも表記されます。

この説話集は、西洋の文化圏にも影響を与えており、『デカメロン』などの説話に類似したモチーフが見られます。特に、「すげかえられた首」の物語は、ゲーテの『パリア』やトーマス・マンの『すげかえられた首』といった作品の題材として採用されています。また、小泉八雲も本書を日本に紹介しました。

日本語訳
ソーマデーヴァ『屍鬼二十五話 インド伝奇集』上村勝彦訳、平凡社〈東洋文庫〉 1978年。
『呪術の王国 憑鬼25話』泉芳璟訳、北宋社 1991年。
『蒙古シッディ・クール物語』吉原公平訳、ぐろりあ・そさえて 1941年。
『シッディ・クール　モンゴル説話集』西脇隆夫 編集 名古屋学院大学総合研究所研究叢書 2013年。

参考文献
田中於菟弥「屍鬼二十五話」解題　『東洋の奇書55冊』自由国民社 1980年

関連項目
インド文学
サンスクリット文学
枠物語

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