ヴォストーク (汽走スクーナー)

ヴォストーク：ロシア帝国海軍のスクーナー

ヴォストークは、19世紀後半のロシア帝国海軍において重要な役割を果たした汽走スクーナーです。その前身は、1851年にイギリスで建造された商船「フィアレス」であり、地中海地域での果物貿易に従事していました。

導入の経緯

1852年、ロシア海軍はエフィム・プチャーチン海軍中将を遣日全権使節として日本へ派遣することを決定しました。その際、プチャーチン提督の随行艦として「フィアレス」が選ばれ、3,375ポンドでロシア海軍に購入されました。購入後、速やかに軍艦としての改装が施され、「ヴォストーク」と命名されました。

艦艇の概要

ヴォストークは、二檣の帆装に加え、蒸気機関とスクリュープロペラを搭載した、当時としては先進的な推進システムを備えていました。これにより、風力に頼るだけでなく、自力での航行も可能となり、作戦行動の柔軟性を高めていました。

武装面では、68ポンド榴弾砲を4門、そして騎兵銃60丁を装備していました。これは、自衛のためだけでなく、威嚇や示威行動にも十分な能力でした。

日本への派遣と日露交渉

1853年、ヴォストークはプチャーチン中将が座乗するフリゲート「パルラーダ」と共にイギリスを出発しました。小笠原諸島の父島でコルベット「オリーヴツァ」や露米会社の武装輸送船「メンシコフ公」と合流後、同年7月に日本の長崎に入港し、日露間の外交交渉が開始されました。

ヴォストークは、その小型で機動性の高い特性を活かし、交渉期間中には日本や朝鮮半島の沿岸地域の航路探索や測量活動にも従事しました。これらの活動は、ロシア海軍にとって極東地域の地理的情報を収集する上で貴重な機会となりました。

クリミア戦争と極東での活動

1854年3月にクリミア戦争が勃発すると、プチャーチン提督の旗艦は「パルラーダ」から「ディアナ」に変更されました。同年6月以降、プチャーチン提督の艦隊は解散され、ヴォストークは「オリーヴツァ」と共に東シベリア総督の指揮下にあるカムチャツカ小艦隊に編入され、ロシア極東地域の防備に当たることになりました。

1854年8月、英仏軍によるペトロパブロフスク攻撃が発生したことを契機に、1855年以降、カムチャツカ小艦隊は根拠地をペトロパブロフスクからニコラエフスクへ移転し、シベリア小艦隊となりました。ヴォストークは引き続きシベリア小艦隊に所属し、極東におけるロシアの権益保護に尽力しました。

ヴォストークは、その短い生涯の中で、商船から軍艦へ、そして外交交渉から軍事作戦へと、様々な役割をこなしました。その活動は、日露関係の黎明期におけるロシア海軍の活動を象徴するものと言えるでしょう。

参考文献

和田春樹 『開国－日露国境交渉』 日本放送出版協会、1991年
奈木盛雄 『駿河湾に沈んだディアナ号』 元就出版社、2005年
原輝行 『ウラジオストク物語』 三省堂、1998年

関連項目

エフィム・プチャーチン
ディアナ号
日露和親条約
君沢形
幕末の砲艦外交

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