ヴォルティジュール

ヴォルティジュール：二冠馬と伝説のマッチレース

ヴォルティジュール(1847-1874)は、19世紀半ばに活躍したイギリスのサラブレッド競走馬です。その名声は、エプソムダービーとセントレジャーステークスというクラシック二冠を制覇したことに留まりません。当時無敵を誇ったザ・フライングダッチマンとの死闘、そしてその後の種牡馬としての成功も、彼の名を競馬史に刻み込みました。

生い立ちと個性

ヴォルティジュールという名前は、フランス語で「軽歩兵」を意味します。2歳の時に1500ポンドで第2代ゼットランド伯爵トマス・ダンダスに購入されました。驚くべきことに、彼は猫をこよなく愛し、晩年は2匹の三毛猫と生活を共にしたといいます。その姿は、著名な画家エドウィン・ランドシーアの絵画にも残されています。19世紀半ばの競走馬としては珍しく、精細な写真が残っていることも特筆すべき点です。 彼の祖父であるブラックロックや、ひ孫であるセントサイモンが気性の荒さで知られた一方、ヴォルティジュール自身は非常に穏やかな性格だったと伝えられています。

輝かしい戦績とザ・フライングダッチマンとの死闘

2歳時はブライトステークスでの勝利のみでしたが、3歳時は飛躍の年となりました。エプソムダービーでは2000ギニー優勝馬ピッツフォードを1馬身差で退け、セントレジャーステークスではラズボローとの接戦を制しました。そして驚異的なのは、そのわずか2日後、スカーバラハンデキャップを挟んでドンカスターカップに出走したこと。相手は当時14連勝中、エプソムダービー、セントレジャー、アスコットゴールドカップなど主要レースを全て圧勝していた無敗のザ・フライングダッチマンでした。

ザ・フライングダッチマンの勝利が圧倒的優勢と見られていたこのレースで、ヴォルティジュールは、酔った状態だったというザ・フライングダッチマンの騎手マーロウを交わし、半馬身差で勝利を収めたのです。この大金星は、競馬界に衝撃を与えました。

この勝利を受け、ザ・フライングダッチマンの馬主である第13代エグリントン伯爵アーチボルド・モンゴメリーは再戦を要求。翌年5月、ヨーク競馬場で行われた世紀のマッチレースは、競馬史上に名高いものとなりました。2マイル（約3219メートル）の激戦は、ヴォルティジュールの先行、ザ・フライングダッチマンの追撃という展開。最後はザ・フライングダッチマンが1馬身差でヴォルティジュールを制しました。

しかし、このマッチレース当日、ヴォルティジュールは別のレースであるアンスティハントカップにも出走しており、グッドウッドカップ優勝馬ナンシーに敗れています。この過酷なスケジュールは、ヴォルティジュールの体調を崩す原因となり、その後は満足な成績を残せませんでした。 ザ・フライングダッチマンハンデキャップでの勝利が引退レースとなりました。

種牡馬としての成功と子孫

引退後は種牡馬となり、まずまずの成功を収めました。ストックウェルやニューミンスターといった強豪種牡馬が存在したためリーディングサイアーにはなれませんでしたが、2000ギニー優勝馬ウェデット、アスコットゴールドカップ優勝馬バックストーン、スカーミッシャーなどの優秀な産駒を輩出しました。ウェデットはガロピンを産み、その血統はセントサイモン系として現代まで受け継がれています。一方、ライバルであったザ・フライングダッチマンの血統もまた、トウルビヨン系として現代に繋がっています。27歳の時、種付けの際に負傷し、安楽死されました。

ヴォルティジュールの遺産

ヴォルティジュールは、その卓越した競走能力、ザ・フライングダッチマンとの伝説的なマッチレース、そして種牡馬としての成功を通して、競馬史に不滅の足跡を残しました。彼の穏やかな性格と猫との友情、そして残された写真などは、その偉業に彩りを添え、彼を単なる競走馬以上の存在として記憶に留めています。彼の血統は、現代競馬においても重要な要素として受け継がれており、その影響は今もなお続いています。

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