ヴォロガセス1世

ヴォロガセス1世：ローマと対峙したパルティア王、そして文化復興

ヴォロガセス1世（生年不詳 - 78年、在位：51年 - 78年）は、アルサケス朝パルティアの王として、激動の時代を生きました。ローマとのアルメニアを巡る争い、国内の反乱、異民族の侵入といった困難を乗り越えながら、独自の文化復興を推し進めた彼の生涯を辿ります。

即位とアルメニア問題

ヴォロガセス1世は、先王ヴォノネス2世の息子として生まれました。父の急逝後、王位を継承。即位後、弟たちをそれぞれアトロパテネ王とアルメニア王に据えようと画策します。アルメニア内部の不満分子を扇動し、ラダミストゥス王を排除。弟ティリダテス（後のティリダテス1世）をアルメニア王に擁立することに成功しました。

しかし、この動きはアルメニアに影響力を持つローマを刺激。ネロ帝は将軍コルブロを派遣し、事態に対応させます。さらに、ヴォロガセス1世の治世下では、息子のヴァルダネス2世の反乱、アディアベネ王イザテス2世との対立、サカ人の侵入、ヒルカニアでの反乱などが相次ぎました。彼は各地を転戦し対応に追われます。

58年、ローマ軍はアルメニアに侵攻し首都アルタクサタを占領。ティリダテスはパルティアへ逃亡します。ローマは新たにティグラネス6世をアルメニア王に据え、アディアベネも攻撃。アディアベネ王モノバゾス2世は一時ローマへの帰順を考えるほど追い詰められますが、パルティアの援軍によってこれを撃退しました。

ローマとの妥協とアルメニアの安定

一連の戦いの後、コルブロは東方全軍への指揮権を与えられ、本格的な攻勢に出ます。そしてローマとの間で、アルメニア問題に関する妥協が成立。63年、ヴォロガセス1世の弟ティリダテスが再びアルメニア王に復位しますが、戴冠式はローマでネロ帝の手によって行われ、臣従の礼をとるという条件が付きました。

ティリダテスは各地で歓迎を受けながらローマへ赴き、これ以降、パルティア、アルメニア、ローマの間に50年以上もの平和が訪れます。このアルメニア問題において、ヴォロガセス1世は一定の成果を収めたと言えるでしょう。

相次ぐ問題と異民族の侵入

アルメニア問題で一定の解決を見たものの、ヒルカニアでの反乱鎮圧には失敗。ヒルカニアは事実上独立王国となりました。さらに、アラン人の侵入を受け、アルメニアやアトロパテネが略奪され、弟のパコルス2世は逃亡を余儀なくされます。ヴォロガセス1世は、アラン人の脅威に対抗するため、ローマに援軍を要請するまでに至りました。

78年、ヴォロガセス1世は死去し、息子のヴォロガセス2世が王位を継承しました。

イラン的伝統の復興

ヴォロガセス1世の治世は、「非ヘレニズム的」な文化が台頭し始めた時代でした。彼はパルティアの王として初めてパフラヴィー語をコイン銘に用い、コインの図像にはゾロアスター教の祭壇が登場するなど、イラン的伝統の復興を推し進めました。

アルタバヌス2世の時代末期からヴァルダネス1世の時代にかけて発生したセレウキアの大反乱以降、ギリシア人ポリスは政治的影響力を低下させ、非ヘレニズム的要素が文化的に強くなっていったと考えられます。

ヴォロガセス1世はまた、首都クテシフォンの近隣に新しい都市ヴォロゲソケルタを建設し、バビロンの近隣にはヴォロゲシアス市を建設。クテシフォン自体も拡充され、これらの都市が発展する一方で、セレウキアなどは衰退していきました。

ヴォロガセス1世の治世は、ローマとの対立、国内の混乱、異民族の侵入といった困難に直面しながらも、独自の文化復興を推し進めた時代として、パルティア史において重要な位置を占めています。

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