ヴュルツブルク市電

ヴュルツブルク市電（Straßenbahn Würzburg）は、ドイツ南部バイエルン州の都市、ヴュルツブルク市内を運行する路面電車システムです。地元市民からは、古フランク語に由来する「ストラバ（Straba）」という親しみやすい愛称で呼ばれています。2023年現在、ヴュルツブルク市が所有するヴュルツブルク供給・交通株式会社（WVV）の完全子会社であるヴュルツブルク路面電車会社（WSB）が、路線バス網と共に一体的に運営を担っています。

歴史

ヴュルツブルク市電の起源は、1892年 4月30日に開業した馬車鉄道に遡ります。開業時には14両の客車が用意され、牽引用として56頭の馬が飼育されていました。1893年には2番目の路線が追加され、1898年には同年に設立されたヴュルツブルク軌道（Würzburger Straßenbahn AG）に運営権が移管されました。これらの路線が電化され、ヴュルツブルクの街に初めて路面電車が登場したのは1900年のことです。

その後も路線の延伸が進められましたが、第一次世界大戦後の急激なインフレーションの影響で、路面電車は長期にわたる運休を余儀なくされました。ヴュルツブルク市が主導する形で運行再開が図られ、1924年には新たな運営会社となるヴュルツブルク路面電車会社（Neuen Würzburger Straßenbahn GmbH）が設立され、営業運転が再開されました。再開後は1929年まで路線網の積極的な拡大が行われました。しかし、第二次世界大戦末期、1945年 3月16日の空襲によって路面電車網は壊滅的な被害を受け、再び運行を停止しました。戦後、路線の復旧作業が進められ、1949年までには多くの区間で運行が再開されました。

1965年、ヴュルツブルク路面電車会社はヴュルツブルク供給・交通株式会社（WVV）に統合・買収され、これが2023年現在まで続く運営体制の基礎となりました。一方で、路面電車路線網については、1964年に一部区間が廃止されたものの、1965年にはハイディングフェルト東駅への延伸が実現しています。また、1968年には乗客が自ら乗車券に刻印を行う信用乗車方式が導入されました。

近代に入ると、1989年にホイケルホフ（Heuchelhof）方面へ向かう5号線が開通し、1997年にもさらなる延伸が実施されました。既存の路線についても、道路との分離を進めるなど、高速化や利便性向上のための改修が進められています。車両面では、1989年に当時の西ドイツで初めての部分超低床電車となるGT-E形が導入され、1995年には同様に低床構造を持つGT-N形が増備されています。

路線

2023年現在、ヴュルツブルク市電は以下の5つの系統で運行されています。

車両

現有車両

GT-D形: 1968年から製造されたデュワグ（Düwag）製の3車体連接車です。GTW-D8と呼ばれることもあり、2019年時点で6両が在籍しています。
GT-E形: 1989年に14両が導入されたリンケ＝ホフマン（現アルストム）製の3車体連接車です。中間車体は床上高さを下げた低床構造となっており、当時の西ドイツで初めての部分超低床電車として特筆されます。
GT-N形: 1996年に製造された5車体連接式の超低床電車です。車体・台車をアルストムLHB、電気機器をシーメンスが担当したコンソーシアムによって20両が製造されました。
「ショッペンエクスプレス」: 過去にヴュルツブルク市電で使用されていた車両のうち、1955年製の2軸車（電動車1両と付随車1両の編成）が、特定の経路を巡る貸切専用のイベント車両として現役で活躍しています。

導入予定の車両

2018年 1月、ヴュルツブルク市議会で新型超低床電車18両の導入が承認され、入札の結果、2019年 12月にはドイツの鉄道車両メーカー、ハイターブリック（HeiterBlick）に発注が行われました。GT-Fという形式名が付与されるこれらの車両は、急勾配区間にも対応可能な760 kWの高出力が特徴の5車体連接車です。車内には冷暖房完備の空調設備や、USB充電ポートなどが設置されます。2022年から製造が開始される計画で、老朽化の進むGT-D形やGT-E形車両を置き換える予定です。さらに、2027年と2030年にもそれぞれ10両ずつ追加発注される計画があります。

延伸計画

グロムビュール方面: 現在の終点であるペスタロッツィ通り電停からグロムビュール方面へ約1.3 km延伸する計画が進められています。これは沿線にある病院へのアクセス向上を目的としており、終点を含む3箇所の停留所が新設される予定です。本格的な建設工事は2023年から開始され、2027年の営業運転開始を目指しています。
フラウエンラント・フーブランド方面: フラウエンラント地区およびフーブランド地区方面への延伸計画も検討されています。大学の拡充や周辺地域の人口増加に対応するため、市内中心部から分岐し、合計11箇所の停留所を設ける路線の建設が将来的な視野に入れられています。

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