一宮村 (岡山県御津郡)

岡山県の中央部に位置し、古くは「春辺の里」とも呼ばれたこの地域は、吉備国の文化発祥地の一つとされる古い歴史を持つ。備前国津高郡に属し、馬屋郷に含まれていたが、郷名の「馬屋」は、古代に置かれた津高駅の駅家（うまや）に由来すると考えられている。江戸時代には岡山藩領となり、藩主池田氏によって馬市が開かれ、遠方からも参加者があるほど盛況を呈し、地域の経済と交流の拠点として栄えた。

明治期の行政再編と村の成立

明治維新の頃、この地域には尾上村、一ノ宮村、一ノ宮敷地村、西辛川村、辛川市場村が存在した。近代行政の整備に伴い、1875年（明治8年）12月27日、一ノ宮村と一ノ宮敷地村が合併して新たな一ノ宮村となった。次いで1883年（明治16年）2月15日には連合戸長役場制度が施行され、津高郡第二部戸長役場が一ノ宮村に設けられ、同村を含む尾上、西辛川、辛川市場の四村を管轄した。

1889年（明治22年）6月1日、町村制の施行により、この第二部戸長役場管轄区域の四村が合併し、自治体としての「一宮村」が発足した。村は旧村名を継承した一宮、尾上、西辛川、辛川市場の四つの大字で構成され、村役場は大字一宮に置かれた。発足当初は津高郡に属したが、1900年（明治33年）4月1日には津高郡が御野郡と合併し御津郡となったため、以後、一宮村は御津郡の自治体となった。

近隣との合併と村の終焉

昭和の大合併期を迎え、一宮村も再編の波に乗る。1955年（昭和30年）1月1日、一宮村は近隣の馬屋下村、平津村と合併し、新たな自治体である「一宮町」が発足した。この合併を機に、一宮村はその自治体としての歴史に幕を下ろし、廃止された。現在、かつて一宮村だった地域は、岡山市が政令指定都市となった後に北区の一部となり、一宮地域南部に位置している。往時を偲ばせる地名として、一宮、尾上、西辛川、辛川市場といった名称が今も残されている。

村の生活と文化

一宮村では、地域住民の生活を支える教育施設や交通網が整備されていた。村内には、現在の岡山市立中山小学校につながる中山小学校や、岡山市立中山中学校の前身である一宮村・馬屋下村・平津村学校組合立中山中学校が設けられていた。また、古くから地域の人々の信仰を集める吉備津彦神社が鎮座する。交通面では、現在のJR吉備線にあたる吉備線が村域を通り、備前一宮駅が設置されていたほか、主要街道である旧山陽道も通過しており、交通の要衝でもあった。

村の著名な出身者

一宮村は、社会に貢献した幾人かの著名な人物を輩出している。弁護士や政治家として活躍した黒住成章（1875年 - 1928年）や、現代の政治家である熊代昭彦（1940年 - ）などが、この地で生まれ育った人物として挙げられる。

このように、一宮村は古代からの豊かな歴史と文化を受け継ぎつつ、近世には経済的な発展を遂げ、近代には地方自治体としてその役割を果たした。短期間の存在ではあったが、近隣との合併により、現在の岡山市を形作る重要な地域の一部となっている。

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