一柳貞吉

一柳貞吉

一柳貞吉（ひとつやなぎ さだきち、1876年12月15日 - 1943年11月4日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家であり、著述家としても知られています。彼は、王子製紙において取締役や監査役といった要職を歴任するかたわら、自身のルーツである一柳家にまつわる歴史の編纂や、一族ゆかりの史跡の保護に情熱を注ぎました。号は南峰、諱は直幹。

生い立ちと経歴

一柳貞吉は、1876年（明治9年）に岐阜県大垣市で誕生しました。父は、大垣藩の藩校で教授を務めていた一柳元吉（号は芳洲、諱は薫）。文部省社会教育局長・国民精神文化研究所所長となった関屋龍吉は実弟にあたります。一柳家は、江戸時代初期に伊予国西条藩を治めていた一柳氏の末裔であり、貞吉はその分家筋にあたります。

1899年（明治32年）に和仏法律学校（現在の法政大学）を卒業後、日本鉄道会社や成田鉄道会社に勤務。1904年（明治37年）に王子製紙に入社し、会社の中枢を担いました。1933年（昭和8年）には取締役兼文書課長として、また関連会社の重役としても活躍しました。

一柳家旧跡の復興

1915年頃、樺太で農場を経営していた旗本一柳家の当主・一柳慎と交流したことがきっかけとなり、一柳家ゆかりの旧跡の荒廃を憂うようになります。1928年（昭和3年）には、かねてからの念願であった、豊臣秀吉に仕えた一柳直末・直盛兄弟ゆかりの地（箱根・山中城周辺）を訪問。そこで、菩提を弔う寺が保護されず荒れ果てている様子や、先祖が建立した石碑が風雨に晒され、修復もままならない状況を目の当たりにし、大きな衝撃を受けます。


以後、一柳家ゆかりの旧跡の調査と修繕に尽力。宗家の一柳慎や、旧小野藩主家・旧小松藩主家である一柳両子爵家、その他一柳一族、各界の名士らを巻き込み、復興活動を推進しました。1930年（昭和5年）には「山中城趾記念碑」を建立。1931年（昭和6年）には、三島付近にあった直末の首塚を守護するため、「一柳山正観寺」を移設するなど、精力的に活動しました（正観寺は現存しません）。山中城址が1933年（昭和8年）に史跡指定された背景には、貞吉が作成した実測図などの資料が大きく貢献したと言われています。

1938年（昭和13年）に王子製紙監査役に就任し、1940年（昭和15年）12月に退職。1943年（昭和18年）11月4日に68歳で生涯を閉じました。

著作活動

一柳貞吉は、著述家としても活動し、以下のような著作を残しました。

『芳洲遺稿』（1920年） - 父・一柳元吉（芳洲）の遺稿集。
『増補大垣城主歴代記』（1921年） - 江戸時代後期に編纂された『大垣城主歴代記』を、父の遺志を継ぎ増補して刊行。
『野田達介翁小伝』（1922年） - 伯父・野田達介の小伝。
『一柳家史紀要』（1933年） - 一柳家の由来や一族の広がりについて記した書籍。一族の古跡再興関連の文章も収録。
『校訂一柳監物武功記』（1935年） - 『一柳家記』の異本である『一柳監物武功記』に校訂を加えたもの。
旅行記 - 王子製紙の工場視察や名所旧跡巡りの記録。
『南紀の旅』（1935年）
『南九州の旅』（1935年）
『琵琶湖畔と富士山麓への旅』（1935年）
『樺太一周』（1939年）
* 『北九州の旅』（1939年）

これらの旅行記は、私家版として出版され、詩歌や写真なども掲載されています。

一柳貞吉は、実業家としての手腕を発揮する傍ら、郷土の歴史や文化を大切にし、後世に伝えるために尽力した人物として、記憶されるべきでしょう。

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