一行

一行禅師：唐代の天文学と仏教を融合させた偉人

一行（683年-727年）、名は張遂。唐代の著名な僧侶にして、天文学者として名を馳せた人物です。魏州繁水県に生まれ、曾祖父は張公謹、祖父は張大素、父は張懍という名家の子孫でした。幼少期から並外れた才能を示し、禅、律、天台教学、密教、そして天文学、暦学と、多岐にわたる知識を習得しました。

彼の生涯は、仏教の研鑽と天文学研究が密接に絡み合ったものでした。703年、荊州玉泉寺の天台宗僧弘景の下で出家。その後、嵩山の普寂から禅を、金剛智から密教の陀羅尼を学びました。707年には玉泉寺の恵真から戒律を学び、710年には天台山国清寺で開眼。仏教における深い理解と修行を重ねながら、天文学への探求心も燃やし続けました。

一行禅師の最も大きな功績は、唐の玄宗の命を受け、新たな暦法『開元大衍暦』を編纂したことでしょう。それまでの麟徳暦は日食予報の精度に問題があり、より正確な暦法の必要性が認識されていました。そこで、一行禅師は梁令瓚と協力し、黄道游儀や水運渾象といった精密な天文観測機器を製作。これらの機器を用いて天体観測を行い、さらに南宮説と共に大規模な子午線測量を実施しました。北は鉄勒から南は交州に至る広大な範囲に及ぶ測量の結果、緯度差1度に相当する子午線弧長を351里80歩（約123.7km）と算出しました。この正確な測定値は、当時の天文学における画期的な成果でした。

これらの観測データと膨大な計算に基づき、一行禅師は52巻にも及ぶ『開元大衍暦』を完成させました。この暦は、精度の高さで知られ、729年には官暦として採用されました。その正確性から、後の暦法にも大きな影響を与えたことは言うまでもありません。

一行禅師は、善無畏の『大毘盧遮那成仏神変加持経』7巻の翻訳事業にも参加し、その講義をまとめた『大日経疏』20巻も著しています。密教の伝承においても重要な役割を果たし、真言八祖の一人として数えられています。

仏教と天文学という一見異なる分野を高いレベルで極めた一行禅師は、まさに時代の先駆者と言えるでしょう。彼の功績は、単なる暦法の改定にとどまらず、科学技術の発展、そして東西文化交流にも貢献しました。彼の生涯と業績は、後世の学者や研究者たちに多大な影響を与え続け、今もなお高い評価を受けています。彼の没後、彼の功績を称え、諡号として「大慧禅師」と贈られました。彼の残した膨大な記録と、その精密な観測に基づく暦は、現代の私たちに、古代中国の高度な科学技術と、仏教思想の深遠さを改めて認識させてくれます。

彼の生涯と業績を伝える資料としては、『宋高僧伝』巻五などが挙げられます。また、彼の研究に関する多くの文献が現在も残されており、研究者たちによって継続的に研究されています。

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