三井寺下駅

三井寺下駅：江若鉄道の要衝、そしてその終焉

三井寺下駅は、滋賀県大津市に存在した江若鉄道の駅です。1921年（大正10年）、江若鉄道の開業と同時に三井寺駅として誕生しました。三井寺駅から叡山駅までのわずか6キロメートルの区間開業という、まさに江若鉄道の出発点だったと言えるでしょう。大津電車軌道と交差しなかったこと、そして国鉄大津駅へのアクセスを考慮し、三井寺下の地に駅が設置されました。

当初は三井寺駅という駅名でしたが、1925年（大正14年）、三井寺駅から新浜大津駅までの路線が開通したことに伴い、起点が浜大津駅に移転。同時に駅名は三井寺下駅へと改称されました。この変更は、駅の位置関係が変化したことを反映したものでした。

三井寺下駅は、単なる乗降場ではありませんでした。江若鉄道の本社と機関区が駅に隣接しており、まさに同社の心臓部として機能していたのです。多くの社員が働き、車両が行き交う活気のある場所だったと想像できます。しかし、駅のホームは1面のみ。列車交換は可能な構造でしたが、通常の運行ダイヤでは交換は行われず、臨時列車運行時のみ、地上から梯子を使って乗降が行われるという、簡素ながらも独自の運用方法がとられていました。

駅舎と広場の存在も確認できます。駅舎は乗客の待合所としての役割に加え、駅前広場は地域住民のイベント会場として利用されていました。また戦後には、皇子山一帯の米軍キャンプへの物資輸送のための側線が敷設されるなど、時代の変遷とともに役割を変化させていった様子も伺えます。

開業から数年間の乗降客数や貨物取扱量の記録も残されています。これらのデータは、当時の経済状況や地域社会の様子を知る貴重な資料となっています。しかし、江若鉄道は1969年（昭和44年）10月31日をもって営業を終了。三井寺下駅も翌11月1日に廃止されました。

現在、駅があった場所は、大津市役所長等市民センター付近にあたります。廃線後、跡地は駐車場となり、かつて存在した枕木も2015年には姿を消してしまいました。周囲は宅地化が進み、今では駅があった痕跡はほとんど見当たりません。しかし、浜大津駅から三井寺下駅までの線路跡は、現在「大津絵の道」という遊歩道として整備され、歴史の面影を残しています。一方、三井寺下駅から滋賀駅方面の線路跡は、2車線の道路として利用されています。

三井寺下駅は、江若鉄道の歴史を語る上で欠かせない存在です。その簡素ながらも重要な役割を果たした駅舎、そして活気ある機関区の姿は、今では写真や文献資料からしか知ることができません。しかし、残された線路跡や記録は、人々の記憶の中に、そして大津の街の歴史の中にしっかりと刻まれています。 また、1964年までは、隣の滋賀駅との間に臨時駅である競輪場前駅も存在していました。

参考文献として、以下の書籍が挙げられます。

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
滋賀県百科事典刊行会 編『滋賀県百科事典』大和書房、1984年
新旭町誌編さん委員会 編『新旭町誌』新旭町、1985年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号、鉄道図書刊行会、1967年
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
* 「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

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