滋賀駅

滋賀駅：江若鉄道の面影をたどる廃駅

滋賀県大津市見世に存在した江若鉄道の駅、滋賀駅。1969年11月1日の廃線によってその歴史に幕を閉じました。この駅は、単なる交通の拠点以上の存在感を持ち、地域社会と深く結びついた歴史を持っています。

開業と地域社会の協力

1921年3月15日、江若鉄道三井寺ー叡山間の開業と同時に誕生した滋賀駅。当時の所在地は滋賀郡滋賀村でした。村は鉄道開業を積極的に支援し、駅建設に必要な土地（約800坪）の費用3440円を、村の財産や村民からの寄付によって捻出しています。この事実からも、地元住民にとって鉄道の開通がどれだけ大きな期待の的であったかが分かります。

駅の構造と役割

滋賀駅は、旅客と貨物の両方を扱う一般駅でした。2本の線路を挟んで向かい合う相対式ホームを持つ構造で、列車の交換も可能でした。このことは、単なる通過駅ではなく、地域における重要な交通拠点としての役割を担っていたことを示しています。

特に、戦時中は近隣にあった滋賀海軍航空隊への物資輸送の拠点として機能しました。そのため、駅からは航空隊へと続く側線が敷設されていました。戦後には、GHQに野菜を供給する水耕農場が航空隊跡地に設置され、農場からの野菜輸送のための側線も敷設されるなど、時代に合わせて役割を変えながら、地域経済を支えていたのです。さらに、大津駐屯地（旧大津海軍航空隊跡地）にあったキャンプ大津B地区への側線も存在していました。

利用状況と周辺環境

開業から数年間にわたる乗降客数と貨物取扱量を見ると、利用客は決して多くありませんでした。これは、三井寺下駅と叡山駅間の列車交換を主な目的とした駅であったためだと考えられます。駅周辺は田園地帯が広がるのどかな風景が広がっていましたが、現在では住宅地へと姿を変えています。湖西線の開通や周辺地域の開発により、駅の面影はほとんど残っていません。かつての線路跡も、湖西線と重なり、痕跡を見つけることは困難です。

廃線とその後

江若鉄道は1969年10月31日に営業を終了。滋賀駅も翌日に廃止されました。競輪場前駅という臨時駅も1964年まで存在していましたが、それも廃駅となり、現在は住宅地と化しています。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『企画展 ありし日の江若鉄道 ―大津・湖西を結ぶ鉄路（みち）―』大津市歴史博物館、2006年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号（通巻192号）、鉄道図書刊行会、1967年1月
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング〈NEKO MOOK〉、2010年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年
『新修大津市史』 第5巻（近代）、大津市、1982年
* 『新修大津市史』 第8巻（中部地域）、大津市、1985年

これらの文献は、滋賀駅の歴史を詳細に理解するために役立ちます。滋賀駅の存在は、地域の歴史と密接に結びついており、その短いながらも重要な歴史を振り返ることで、過去の地域社会の姿を想像することができます。

もう一度検索