三井物産ビル

三井物産ビルの歴史と特徴

三井物産ビルは、東京都千代田区大手町に位置していた高層ビルで、三井物産の本社として長年利用されていました。このビルは、三井物産の創業100周年を記念する事業の一環として建設され、同社にとって初の自社専用ビルとして、1976年10月に竣工しました。その建築美は高く評価され、1978年にはBCS賞を受賞しています。

建築の特徴

ビルは本館と東に隣接する別館から構成され、両館は渡り廊下で連結されていました。この渡り廊下の真下は車寄せとして機能していました。建物の形状は南北に長く、本館は皇居側から見ると、高さと幅がそれぞれ100メートルの正方形という特徴的な外観をしていました。内部構造としては、12階と13階が低層用と高層用のエレベーターの乗り換え階となっており、会議室や印刷室がこの階に集中していました。また、23階と24階には役員室があり、専用のエレベーターが設けられていました。

プラザとカルガモ

ビルの西側には内堀通りに面して「プラザ」と呼ばれる三角形の公開空地が設けられ、クスノキやモッコク、ヤマモモなどの植栽が施されていました。特に注目されたのが、プラザ内に作られた人工池「プラザ池」です。1983年5月には、この池で初めてカルガモが誕生し、内堀通りを横断して皇居の堀へと引っ越すカルガモ親子の姿が、毎年恒例の風物詩として親しまれていました。ビルの管理を担っていた物産プロパティマネジメントの女性社員たちは、「カルガモレディー」としてカルガモの観察を続けていましたが、再開発計画のため、2013年にこの池は閉鎖されました。

また、ビルの地下には丸の内熱供給の地域熱供給プラントが設置されており、プラザ内には排気塔がありました。

再開発と新たなビル

しかし、時代の流れとともに、三井物産ビルは再開発の対象となりました。三井物産ビルと東側に隣接する三井不動産所有の大手町一丁目三井ビルディング、さらに三井物産と三井不動産が共同所有する大手町パルビルを一体的に再開発することが決定しました。この再開発により、三井物産ビルの跡地には、地下5階、地上30階、高さ155メートルのA棟が、大手町一丁目三井ビルと大手町パルビルの跡地には、地下5階、地上41階建て、高さ200メートルで上層階にホテルが入居予定のB棟が建設されることになりました。この再開発では、防災備蓄倉庫や2400人分の帰宅困難者一時滞在施設の整備、地域熱供給施設の更新も計画されています。

この再開発に伴い、三井物産は2014年11月25日に本社機能を日本生命丸の内ガーデンタワーとJAビルへ移転しました。そして、三井物産ビルは2015年1月5日から鹿島建設によって解体されました。

新たな『三井物産ビル』

2019年10月17日、三井物産と三井不動産は、再開発街区の名称を『Otemachi One』とし、新しい本社ビルの名称を『三井物産ビル』とすることを発表しました。2020年5月7日には、完成した新社屋で三井物産が業務を再開しました。また、今回の再開発における前庭としての役割を担うOtemachi One Gardenも2022年末に完成し、そこにはカルガモが生息できる水辺空間が再び設けられる予定です。

この再開発により、かつての三井物産ビルは姿を消しましたが、その歴史と精神は、新たな『三井物産ビル』へと引き継がれていくことになります。

参考資料

• - 森喜則、今吉賢一『ビル紳士録』毎日新聞社、1992年。ISBN 4-620-30885-4。
• - 『近代建築』近代建築社、2020年10月。

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