三国峠の戦い

三国峠の戦い：戊辰戦争、越後口の激戦

三国峠の戦いは、慶応4年（1868年）閏4月21日から24日にかけて、上州諸藩を中心とする新政府軍と会津藩を中心とする幕府軍が激突した、戊辰戦争における越後口での重要な戦闘の一つです。

戦闘に至るまで

幕末の魚沼郡は、天領、桑名藩領の飛び地、会津藩領、幕府領のうち会津藩預かり地などが入り組んだ状態でした。会津藩は小出島陣屋を中心に兵を配置し警備を行っていました。江戸開城後、北陸道軍が高田から移動し越後から官軍が一時的に不在になると、会津藩は関東方面からの官軍を迎え撃つため、小出島陣屋の兵力を増強しました。

郡奉行の町野源之助（町野主水）を隊長に、副隊長の町野久吉（源之助の弟）、第二遊撃隊の井深宅右衛門、池上武輔ら藩士20余名と、地元の農民や侠客などからなる農兵・郷村兵130余名（一説には300余名）が、三国峠の大般若塚に陣を敷きました。浅貝宿滞陣中には、小栗上野介の遺臣である佐藤銀十郎らが合流しました。しかし、上州側の目立った動きがなかったことと農作業の繁忙期が重なり、一部の人足や農民は帰郷していました。

一方、薩長を中心とする新政府軍は、桑名藩主・松平定敬のいる柏崎や、新潟港を経由して会津藩主・松平容保のいる鶴ヶ城を攻める計画を立てていました。そのため、越後出兵を命じ、北陸道鎮撫総督の高倉永祜、副総督の四条隆平、参謀の山縣狂介（山縣有朋）、黒田了介（黒田清隆）らが率いる部隊が高田に入りました。また、東山道鎮撫総督の岩倉具定、参謀の乾退助（板垣退助）、伊地知正治らが率いる東山道軍も上野巡察使として永井宿に到着。後方の沼田藩、安中藩などの兵力を含めると、総勢1,200名から1,500名に及ぶ大軍勢となりました。

官軍の先発隊は大般若塚への接近を試みましたが、会津藩兵によって道中に大木が倒され、陣地には胸壁、堀、柵、落とし穴、鹿砦などが設けられており、進軍を阻まれました。会津藩側も斥候からの情報で官軍の接近を察知し、帰郷していた農兵に帰陣を促していましたが、多くはまだ戻っていませんでした。

閏4月22日、久吉は永井宿の本陣を訪れ、官軍を決して泊めないようにという伝言を伝え、米俵に槍を突き刺すという大胆な行動に出ました。久吉は宝蔵院流の槍術の使い手であり、その勇猛さを印象付けました。

戦闘の経過

閏4月23日、高崎藩、吉井藩、佐野藩の部隊が三方から大般若塚を銃撃しました。会津藩兵は地形の有利を生かし応戦しましたが、雨により戦闘は中断。官軍は夜間に障害物を撤去する工作を行いました。

閏4月24日未明、濃霧の中、官軍が総攻撃を開始。会津藩兵は前日の戦闘後、一時的に後退しており、不意を突かれる形となりました。戦力差から源之助は撤退を提案しましたが、久吉は「会津武士に退くという言葉はない」と反対し、一番槍として官軍に突撃。久吉は蒲生氏郷伝来の大身槍を手に奮戦し、前橋藩隊に迫るも銃撃を受け戦死しました。享年17歳。その勇猛さから、官軍兵士によって遺体の一部が食われたという逸話も残っています。

会津側は午後まで持ちこたえましたが、多勢に無勢で総崩れとなり撤退。官軍側の記録では、死者3名、負傷者3名。会津藩側の死者は藩士4名、負傷者1名と記録されていますが、農兵などの死傷者数は不明です。

戦闘の後

会津藩兵は追撃を遅らせるため、浅貝宿と二居宿に火を放ちました。三俣宿までは退きましたが、北陸道軍の支隊が迫っていることを知り、小出島へ撤退。三俣宿は焼かれることを免れました。

塩沢組の庄屋である岡村清右衛門は、会津藩から物資や人足の手配を命じられていました。官軍に捕縛されたものの、組内の庄屋たちの嘆願により解放されました。清右衛門の息子である岡村貢は、この出来事をきっかけに国家社会に尽くすことを誓い、後に上越線の父と呼ばれるようになりました。

久吉の戦いぶりは、当時前橋藩砲兵指南役だった亀岡泰辰によって「その勇気は賞賛するに余りある」と回想されています。久吉の槍は官軍に回収され、後に山縣有朋の手に渡りましたが、主水は「戦場で奪われた槍を畳の上で受け取ることはできない」として返還を拒否。現在は若松城天守閣郷土博物館に収蔵されています。

三国峠の戦いは、戊辰戦争の一局面を示す出来事であり、会津藩士の忠義と、時代の転換期における人々の様々な生き様を映し出しています。

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