三宅記

『三宅記（みやけき）』は、伊豆地方に伝わる神々の縁起を記した古文書です。寺社の起こりや由緒を記した寺社縁起の一つであり、旧伊豆国、現在の静岡県伊豆半島や東京都伊豆諸島地域に祀られる神々について記述されています。この書物は、複数の通称で知られており、「三嶋大明神縁起」「嶋々御縁起」「白浜大明神縁起」などとも呼ばれます。

本書は、本地垂迹説に基づいて寺社の縁起を説く「本地物」の一つであり、原本は鎌倉時代末期に完成したと考えられています。その内容は、主神である三嶋大明神の出自から始まり、伊豆諸島の形成、そして三宅島を中心とした開拓の伝承が語られます。国史に記載されている伝説との関連性も指摘されており、伊豆の神々を研究する上で重要な資料とされています。

書物の後半部分には、壬生御館実秀に始まる壬生家の人物が記されています。壬生家は、三宅島の信仰の中心である御笏神社、富賀神社、薬師堂の二社一堂を現代に至るまで管理しており、古くは島政も司っていた家柄です。このため、本書は壬生家の由来記として、その庇護の下で編纂されたと考えられています。

写本と現代語訳

『三宅記』には複数の写本が存在し、それぞれに特徴があります。

七島文庫蔵本（壬生家旧蔵本、壬生本、三宅島本）

三宅島の神官である壬生家に伝えられてきた写本です。現在は三宅島七島文庫に所蔵されています。内題は「三嶋大明神縁起」とされ、御笏神社内陣に納められていた内陣本であると見られています。壬生家は、最初の三嶋神奉斎者とされる壬生御館実秀の子孫とされています。

前田家蔵本（新島本）

新島に伝えられる写本で、3冊あります。1冊は無題ですが、残り2冊は通称「島々御縁起」と呼ばれています。無題のものは、文明13年（1481年）の奥書を持ち、写本の中でも古い部類に属します。

伊古奈比咩命神社蔵本（白浜本）

静岡県下田市白浜の伊古奈比咩命神社に伝わる写本です。奥書から、享保年間（1716年-1735年）後半から元文年間（1736年-1740年）初めの成立と推定されています。漢字と片仮名が混じった文体で書かれており、朱筆による注記が加えられています。

内閣文庫蔵本（太政官文庫旧蔵本）

無窮会神習文庫蔵本（井上頼圀旧蔵本）

上記以外にも、内閣文庫蔵本（和学講談所旧蔵本）、来宮神社蔵本、原家蔵本、浅沼家蔵本、三嶋大社蔵本など、10本以上の写本が現存しています。

また、『三宅記』の現代語訳も存在し、下田市教育委員会によって刊行された書籍などで一部が紹介されています。

内容

『三宅記』は、三つの主要な物語で構成されています。

第1部

天竺に生まれた王子（三嶋神）は、継母の嫉妬により父の怒りを買い、流浪の旅に出ます。支那、高麗を経て、孝安天皇元年に日本へ渡来します。富士山頂で神明に安住の地を求め、富士山南部の地を与えられます。しかし、その地が狭いため、「島焼き」と呼ばれる造島を行うことを決意し、一度天竺に帰国します。再来日した際、丹波で出会った翁媼との会話から、自身の名が「三嶋大明神」であり、正体が薬師如来であることを知ります。翁（天児屋根命）から「タミの実」を授かり、翁媼の子である若宮、剣宮、見目を連れて伊豆に向かいます。孝安天皇21年、多くの龍神、雷神と共に「島焼き」を行い、7日7夜で10島を創造します。これらの島々には、自身の后を配置し、各后は王子たちを生んだとされています。

第2部

三嶋神は、箱根の湖畔に住む老翁媼の3人の娘を大蛇（龍神）から救い、彼女らを后として三宅島に迎えます。3人の后もまた、多くの王子を生んだとされています。

第3部

三嶋神は富士山において、東遊や駿河舞の芸を習得した壬生御館という人物に出会います。御館は、神々が創造した島々を見るために三宅島に渡り、三嶋神の命によって築地を築きました。推古天皇2年（594年）正月、三嶋神は垂迹の時を迎え、御館に奉斎を命じ、500年後に守護神となることを宣言し、石笏を託して垂迹します。御館は息子の実正に東遊や駿河舞の技を、三嶋神は実成に亀卜の技を教えました。御館は本国へ帰り、三嶋神は白浜に飛び立ったとされますが、御館の子孫は三宅島で三嶋神を奉斎し続けたとされています。

島の一覧

『三宅記』には、各島の名称とその由来が記されています。

神の一覧

『三宅記』に登場する神々の神名と、他文献との比較、現在の神社の比定についても記述されています。また、記載はないものの、三嶋神の后神や御子神とされる式内社についても触れられています。

備考

壬生家

壬生御館実秀：三嶋神初代奉斎者。
雨増の御前：壬生御館の妻。
壬生実正：壬生御館の子。
壬生実安：壬生御館の孫。

これらの記述を通して、『三宅記』は伊豆地方の神話や歴史、信仰を理解する上で不可欠な資料となっています。

もう一度検索