孝安天皇

孝安天皇

孝安天皇（こうあんてんのう）は、日本の第6代天皇とされています。在位期間は『日本書紀』によると、孝安天皇元年1月7日から102年1月9日までとされています。諡号は日本足彦国押人天皇（やまとたらしひこくにおしひとのすめらみこと）。

概要

孝安天皇は、欠史八代の一人に数えられ、その実在性については諸説あります。もし実在したとすれば、1世紀中頃から2世紀前半頃の人物と考えられています。また、後漢の安帝の時代に倭国王帥升（すいしょう）として朝貢した人物とする説もあります。

略歴

孝安天皇は、孝昭天皇の第二皇子として誕生しました。母は尾張連祖の瀛津世襲の妹である世襲足媛尊（よそたらしひめのみこと）。同母兄には和珥臣の祖である天足彦国押人命（あめたらしひこくにおしひとのみこと）がいます。孝昭天皇が崩御した翌年の1月に即位し、即位2年目に室秋津島宮（むろのあきつしまのみや）に都を移しました。

即位26年には、天足彦国押人命の娘である押媛（おしひめ）を皇后とし、大日本根子彦太瓊尊（おおやまとねこひこふとにのみこと、後の孝霊天皇）らをもうけました。孝安天皇は即位102年に崩御しました。

名称

日本足彦国押人天皇（やまとたらしひこくにおしひとのすめらみこと）：『日本書紀』での呼称。
大倭帯日子国押人命（おおやまとたらしひこくにおしひとのみこと）：『古事記』での呼称。
孝安：漢風諡号であり、8世紀後半に淡海三船によって撰進されたとされています。

事績

『日本書紀』と『古事記』には、系譜の記載が主であり、事績に関する記述はほとんどありません。そのため、欠史八代の一人として扱われています。

系譜

後妃には押媛（おしひめ、忍鹿比売命）がおり、天足彦国押人命の娘で、孝安天皇の姪にあたります。ただし、『日本書紀』の一書には、磯城県主葉江の娘である長媛や、十市県主五十坂彦の娘である五十坂媛とする説もあります。

皇子には、大吉備諸進命（おおきびのもろすすみのみこと）と、後の孝霊天皇である大日本根子彦太瓊尊（おおやまとねこひこふとにのみこと）がいます。

年譜

『日本書紀』によれば、以下の通りです。

孝昭天皇49年：誕生
孝昭天皇68年1月：立太子
孝安天皇元年1月：即位
孝安天皇2年10月：室秋津島宮に遷都
孝安天皇26年2月：押媛を立后
孝安天皇76年1月：大日本根子彦太瓊尊を立太子
孝安天皇102年1月：崩御。

宝算は137歳、『古事記』では123歳。

9月：玉手丘上陵に葬られる。

宮

孝安天皇の宮は、『日本書紀』では室秋津島宮（むろのあきつしまのみや）、『古事記』では葛城室之秋津島宮とされています。宮の伝説地は、現在の奈良県御所市室周辺にあり、八幡神社境内に「室秋津島宮阯」碑が建てられています。

「秋津島」という言葉は、元々は上記の宮が営まれた葛城地方を指す地名であったとする説があります。

陵・霊廟

陵は玉手丘上陵（たまてのおかのえのみささぎ）といい、現在の奈良県御所市大字玉手にある玉手丘陵上にあります。宮内庁により円丘として治定されています。

『日本書紀』では「玉手丘上陵」、『古事記』では「玉手崗上」に所在するとされています。『延喜式』諸陵寮では、兆域は東西6町・南北6町、守戸5烟とされています。

中世に陵の所在が失われ、元禄年間に室村の宮山古墳が候補とされましたが、現在では現在の地が定説となっています。幕末の修陵の際に修治が加えられ、慶応元年に修陵奉告が行われました。

皇居では、宮中三殿の皇霊殿において、他の歴代天皇・皇族と共に孝安天皇の霊が祀られています。

信仰と地方の伝承

孝安天皇の勅命によって創建されたとされる神社が各地に存在します。和歌山県鳴神の鳴神社、滋賀県米原市の筑摩神社、滋賀県東近江市の建部神社、宮崎県宮崎市の住吉神社、高知県香南市の深淵神社などがあります。

勅命ではないものの、孝安天皇の御代に創建されたとされる神社も多く、彌彦神社、伊古奈比咩命神社、山田神社、鼻節神社、石巻神社、月讀社、穴澤天神社、勝手神社、天石門別八倉比売神社、粟神社などがあります。

孝安天皇を主祭神として祀る神社には、舞岡八幡宮、柄沢神社があります。また、天押帯日子命（孝安天皇の兄）が祀られている神社もあります。

異国賊徒の襲来

福岡県糸島市の雷神社の社伝によると、孝安天皇の御代から垂仁天皇の御代にかけて、異国からの賊徒の襲来が七度あり、神が雷雨を降らせて賊を降伏させたとされています。

潮動

鳴神社の社伝によれば、孝安天皇の御代に潮動が起こり、名草郡が冠水したとされています。その後、水門神である速秋津日古命を祀ることで災厄を逃れられると託宣があり、勅使を遣わして祀られたのが鳴神社の由緒とされています。

富士山

富士講の古文書によると、富士山は神代の間は雲霧に覆われており、孝安天皇92年に初めて姿を現したとされています。そのため、60年に一度の庚申の年は御縁年とされ、多くの登拝者が山頂を目指したとされています。

天香山命の薨去

彌彦神社の社伝によると、天香山命は孝安天皇元年に越の国開拓を終え、弥彦山に葬られたとされています。その後、御子である天五田根命が廟社を築き奉祀したのが彌彦神社のはじまりとされています。

考証

実在性

孝安天皇を含む欠史八代の天皇は、事績の記載が少ないため、実在性が疑問視されています。治世の長さが不自然であることや、7世紀以降の父子間直系相続であること、宮・陵の所在地が古墳の分布と一致しないことなどから、創作性が強いとする見解があります。

一方で、宮号に関する原典の存在や、磯城県主との関わりから、全てを虚構とすることに否定的な見解もあります。

治世の長さについては、春秋二倍暦説で説明できるとする向きもあります。

名称

和風諡号である「やまとたらしひこ-くにおしひと」のうち、「やまとたらしひこ」は後世に付加された美称、「くにおしひと」は神名の末尾に付く名称とする説があります。孝安天皇の原像は「くにおしひと」という古い国造りの神であり、これが天皇に作り変えられたとする説があります。

また、本来は皇族出身の大王ではなく、磯城県主出身の大王であったとする説もあります。

参考文献

『国史大辞典』吉川弘文館
「孝安天皇」『日本古代氏族人名辞典 普及版』吉川弘文館、2010年

関連項目

欠史八代
安帝

外部リンク

* 玉手丘上陵 - 宮内庁

もう一度検索