三易

三易：古代中国の占いの書『連山』『帰蔵』『周易』

古代中国において、卦を用いた占いの書として知られる『連山』（れんざん）、『帰蔵』（きぞう）、『周易』（しゅうえき）の三書を総称して「三易」と呼びます。本稿では、三易の歴史、制作者、内容、そして八卦図との関連性について、既存の文献を基に詳細に解説します。

三易の歴史：文献からのアプローチ

三易に関する最古の記述は、『周礼』春官に見られます。そこでは、大卜という官吏が「三兆・三易・三夢」の法を司り、その三易が『連山』『帰蔵』『周易』であるとされています。いずれも八卦を基本とし、それを組み合わせた六十四卦を持つ点が共通しています。ただし、『周礼』における記述の信憑性については、後述するように議論があります。

『新論』の桓譚によると、『連山』は8万字、『帰蔵』は4300字あったと伝えられています。しかし、『漢書』芸文志には『連山』『帰蔵』は記載されておらず、後世になって『帰蔵』のみが確認できるようになります。西晋の荀勗による『中経新簿』に『帰蔵』が載っていることから、この頃に世に出現したと推測されます。『隋書』『旧唐書』『新唐書』では『帰蔵』を13巻としていますが、宋代には「初経・本蓍・斉母」の3篇しか残っておらず、その後は完全に失われてしまいました。

『周礼』に記される『帰蔵』と、晋代以降に実在した書物の『帰蔵』が同一かどうかは不明です。唐の孔穎達は、『春秋左氏伝』襄公9年の疏において、連山・帰蔵は早くに滅び、世に伝わる『帰蔵』は偽書であると主張しました。また、『連山』については、『新唐書』に「『連山』十巻、司馬膺註」という記述がありますが、詳細は不明です。『隋書』には、劉炫が『連山易』を偽造したという記述も見られます。

清代の馬国翰『玉函山房輯佚書』には、諸書が引用する『連山』『帰蔵』の断片が収められています。1993年には、湖北省江陵県の王家台秦墓から秦代の易に関する竹簡文書（王家台秦簡）が出土し、馬国翰が収集した『帰蔵』と共通する部分が多いことが判明しました。

『左伝』『国語』の占筮の記事にある易経文は、今日の周易とほぼ一致していますが、3ヶ所で相違が見られます。これらの相違点は韻を踏んでおり、易経文と類似したスタイルを持つことから、清の顧炎武は、これらの経文が『帰蔵』『連山』の断片ではないかと推測しました。しかし、本田済は、『周礼』の年代や記述内容に疑問を呈し、周易以外の類似した占筮の可能性を認めつつ、これらの経文を安易に『連山』『帰蔵』と断定することはできないとしています。

三易の制作者：諸説の検討

後漢の杜子春は、『連山』を伏羲、『帰蔵』を黄帝の作としたのに対し、鄭玄は夏・殷の作としました。皇甫謐は、夏は炎帝（神農）によって『連山』、殷は黄帝によって『帰蔵』が作られたと主張しています。また、『連山』『帰蔵』を三皇（伏羲・神農・黄帝）の書とする説もあり、伏羲が八卦を創り、それまでの結縄の政に代えたという伝説と関連付けられています。この説は、漢字の発明が黄帝の臣下である蒼頡によるものとされることを考慮すると、文字発明以前の書物であることを意味します。鄭樵『通志』は『古三墳書』に基づき、伏羲の書を『連山』、神農の書を『帰蔵』、黄帝の書を『坤乾』としていますが、『古三墳書』自体が宋代に出現した偽書とされることが多いです。

三易の内容：周易との比較

『連山』『帰蔵』の内容については、『周礼』に「その経卦は皆な八、その別は皆な六十有四」とあり、周易と同様に八卦・六十四卦を共有していると考えられています。違いとしては、周易が乾を首卦とするのに対し、『連山』は艮、『帰蔵』は坤を首卦とする点、周易が変爻（九・六）を見るのに対し、『連山』『帰蔵』は不変の爻（七・八）を見る点が挙げられます。

八卦図：先天図との関連性

宋代には、伏羲が作ったとされる八卦・六十四卦の順序と方位図である先天図が作られました。『連山』『帰蔵』についても、先天図と同様の原理で順序と方位図が作られています。具体的には、それぞれの首卦の上爻の陰陽を反転させ、次いで中爻、下爻と反転させていくことで順序が決定されます。これにより、先天図が「乾坤震巽坎離艮兌」となるのに対し、『連山』は「艮坤巽坎離震乾兌」、『帰蔵』は「坤艮坎巽震離兌乾」となります。方位図は、首卦を南（上）に置き、「天地定位、山沢通気、雷風相薄、水火不相射」という説卦伝の記述に従って、乾と坤、艮と兌、震と巽、坎と離を対にすることで導き出されます。六十四卦の順序と方位も同様の原理で導き出されます。

参考文献

* 『『帰蔵』の伝承に関する一考察--附、『帰蔵』佚文輯校』、川村潮、2006

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