孔穎達

孔穎達（574年～648年）は、中国初唐を代表する儒学者の一人です。字は沖遠、諡は憲。河北省衡水市桃城区の出身で、孔子の32世の孫を称していました。彼は、秦王府十八学士にも名を連ねるなど、その高い学識と才能は広く知られていました。名前の読み方については、漢音では「こうえいたつ」ですが、平安時代以降は呉音の「くえいたつ」や「くようだつ」といった読み方が一般的に用いられています。

隋の大業元年（605年）、孔穎達は科挙の明経科に及第。その後、大学助教に任命され、華々しいキャリアをスタートさせます。唐が建国されると、国子博士、国子監祭酒、皇太子の侍講と要職を歴任。その過程でしばしば太宗李世民に直言を進言するなど、強い信念と行動力を持った人物であったことが伺えます。太宗からの信頼も厚く、重要な政策決定にも関与したと伝わっています。

彼の最も大きな功績は、なんといっても『五経正義』の撰述でしょう。この170巻にも及ぶ大著は、儒教の経典である五経の解釈を統一することを目的として、太宗の命によって編纂されました。それまで、儒教の解釈は流派によって多様で、統一性に欠けていたため、経典の理解に混乱が生じていました。孔穎達らの努力によって、初めて経典の解釈が統一され、儒学研究に大きな転換をもたらしたのです。

『五経正義』は、単なる学術書にとどまりませんでした。明経科の科挙試験において、この書が事実上の教科書として用いられるようになったのです。受験生にとっては、非常に便利な存在となりました。しかし、その一方で、学問の自由な発展が阻害されるという副作用も生じました。特定の解釈に縛られることで、新たな解釈や研究が生まれる可能性が狭められたと言えるかもしれません。

孔穎達と魏徴は、『隋書』の編纂にも携わっており、これも彼の大きな業績の一つと言えるでしょう。歴史書編纂への参加は、彼の歴史認識や政治への関与の深さを示しており、単なる儒学者としての枠を超えた活躍ぶりを示しています。

孔穎達に関する史料としては、『旧唐書』巻73 列伝第23、『新唐書』巻198 列伝第123 儒学上などが挙げられます。これらの史料から、彼の生涯や業績、人物像をより深く知ることができます。孔穎達の功績は、単に儒学の発展に貢献しただけでなく、科挙制度や歴史編纂といった、唐の政治文化に多大な影響を与えたと言えるでしょう。彼の生涯と業績は、中国の歴史、特に儒学史において重要な位置を占めています。

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