劉炫

劉炫：北斉から隋にかけて活躍した博学者

劉炫(りゅうげん、生没年不詳)は、北斉から隋にかけて活躍した学者です。字は光伯、河間郡景城県出身で、幼少期からその聡明さで知られていました。信都の劉焯らと共に、名高い学者熊安生に師事し、学問を深めました。

南朝梁の学問との出会い

北斉末期、劉炫は南朝梁の費甝による『尚書』の注釈書を入手しました。これは、北朝において孔安国伝の『尚書』注釈が受け入れられる重要な契機となりました。この出来事は、南北朝の学問交流を示す重要なエピソードであり、劉炫の学問への貢献を物語っています。

北周・隋での活躍と偽書事件

北斉が北周に併合されると、劉炫は瀛州刺史の宇文亢に重用され、戸曹従事の地位に就きました。その後、隋が建国されると、著作郎の王劭と共に国史編纂に携わりました。天文や律暦にも精通しており、幅広い知識を有していたことが伺えます。

しかし、開皇3年(583年)には、牛弘の命による書籍募集の際に、百巻以上の偽書を作成し、「連山易」「魯史記」などと称して朝廷に献上し、報酬を得ました。この行為が発覚し、劉炫は官職を追われました。この事件は、彼の才能と同時に、その倫理観の欠如も示しています。

開皇20年(600年)には、国子四門と州県学の廃止、太学博士2名と学生72名のみとする教育改革が行われました。劉炫は、この改革に反対し、学校廃止の是非を朝廷に訴えましたが、隋の高祖は彼の意見を受け入れることはありませんでした。

数々の著作と散逸

『隋書』劉炫伝によれば、劉炫は多くの著作を残しました。『論語述議』、『春秋攻昧』、『五経正名』、『孝経述議』、『春秋述議』、『尚書述議』、『毛詩述議』、『注詩序』、『算術』など、多岐にわたる分野の著作が記録されています。これらの書物は、当時広く読まれ、高い評価を得ていたと推測されます。

しかしながら、これらの著作は中国大陸ではほとんどが散逸してしまいました。一部は清代の馬国翰による『玉函山房輯佚書』に収録されていますが、完全な形で現存しているものは少ないのが現状です。

特筆すべきは、『孝経述議』の一部が日本に現存しており、林秀一氏によって復元が試みられたことです。これは、現存する数少ない義疏の一つであり、劉炫の学問的貢献を後世に伝える貴重な資料となっています。

波乱万丈の人生と学問的遺産

劉炫は、偽書事件に関与したものの、その学問的業績は無視できません。数々の著作を残し、特に『孝経述議』は、現代にいたるまで研究対象となっています。彼の生涯は、才能と挫折、成功と失敗が複雑に絡み合った、波乱万丈なものでした。しかし、彼の残した学問的遺産は、後世の学者たちに大きな影響を与え続け、中国の学問史において重要な位置を占めているといえるでしょう。

研究

劉炫に関する研究は、日本においても盛んに行われています。特に、『孝経述議』の復元研究は、彼の学問的業績を理解する上で重要な役割を果たしています。以下に、主な研究例を挙げます。

林秀一『孝経述議復原に關する研究』（文求堂書店，1953）
長谷部英一「隋代の暦論」（『中国哲学研究』６, p1-21, 1993）
喬秀岩『義疏學衰亡史論』（萬巻樓，2013）
林秀一（譯：喬秀岩・葉純芳・顧遷）『孝經述議復原研究』（崇文書局，2016）

これらの研究を通して、劉炫の生涯と業績に対する理解はさらに深まるでしょう。

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