三里塚のイカロス

三里塚のイカロス：成田闘争の知られざる側面に迫るドキュメンタリー

2017年公開のドキュメンタリー映画『三里塚のイカロス』は、日本の現代史における重要な出来事である成田空港問題、通称「三里塚闘争」を題材にした作品です。前作『三里塚に生きる』に続く、三里塚闘争を描いたドキュメンタリー映画として注目を集めました。タイトルの「イカロス」は、ギリシア神話に登場する、太陽に近づきすぎて墜落した人物に由来し、闘争に身を投じた人々の運命と、その栄光と挫折を象徴的に表しています。

本作は、従来の農民側の視点に加え、新左翼運動に関わった活動家たちの証言に焦点を当てています。元革共同、ML派、第四インターなど、様々な新左翼グループに所属した活動家や支援者、そして彼らの家族へのインタビューを通して、闘争の内部構造や参加者たちの葛藤、そしてそれぞれの思想や行動の背景を多角的に明らかにしています。

特に、成田空港管制塔占拠事件に関与した活動家たちの証言は、事件の詳細やその思想的背景を理解する上で重要な手がかりとなります。また、空港公団の用地買収交渉に携わった「0期生」と呼ばれる職員へのインタビューも収録されており、公団側の視点からの証言は、闘争の全貌を理解する上で不可欠です。中でも、中核派に自宅を爆破された元空港公団用地部職員である前田伸夫氏へのインタビューは、事件の衝撃と、その後の人生に与えた影響を深く考えさせるものです。

映画制作にあたっては、クラウドファンディングが活用され、多くの支援者から資金が提供されました。このことは、本作が単なる商業映画ではなく、社会的な関心の高いテーマを扱った作品であることを示しています。2017年9月9日、東京都渋谷区のシアター・イメージフォーラムにて、英語字幕付きで公開されました。公開と同時に、小川紳介没後25周年記念として、「小川プロダクション・三里塚とあの時代 1967-1973」も再上映され、三里塚闘争を巡る社会的な関心の高さを改めて示しました。

映画の中で重要な役割を果たすのが、中核派の元活動家である岸宏一氏です。彼は1981年から2006年まで、中核派の三里塚現地責任者として活動していました。その間、中核派は10.20成田現地闘争や、東鉄工業作業員宿舎放火殺人事件など、様々な事件を起こしました。映画の中で岸氏は、国家権力との闘いの中心にいた経験を振り返りつつも、中核派の活動と三里塚での失敗を率直に語ります。岸氏へのインタビューは、彼自身の回顧録であり、同時に三里塚闘争における新左翼の関与と限界を問いかける、重要な証言となっています。

特に衝撃的だったのは、映画撮影後の2017年3月26日、岸氏が谷川岳連峰で遭難死したことでした。このインタビューが彼の事実上の遺言となったことは、映画に重みを増しています。岸氏の死後、中核派の機関紙『前進』は本作を批判する記事を掲載しました。記事では、岸氏の証言を脱落派の見解と断じ、映画全体の構成や内容を強く批判しています。

『三里塚のイカロス』は、単なる歴史的事件の記録にとどまらず、国家権力と市民運動、そして新左翼運動の複雑な関係性を多角的に描き出した、貴重なドキュメンタリー作品です。三里塚闘争に関わった人々の証言を通して、過去の歴史を振り返り、現代社会の課題を改めて考えさせられる、深みのある作品と言えるでしょう。監督の代島治彦氏をはじめ、加藤孝信氏（撮影）、大友良英氏（音楽）、北井一夫氏（写真）、下田昌克氏（アニメ原画）といった、実力派スタッフ陣による制作も、本作の魅力を高めています。

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