三雲・井原遺跡

三雲・井原遺跡

福岡県糸島市に位置する三雲・井原遺跡は、弥生時代の集落遺跡であり、古代伊都国の中心地であったと考えられています。この遺跡は、川原川と瑞梅寺川に挟まれた低位段丘上に広がり、南北1500メートル、東西750メートル、約60ヘクタールという広大な範囲を誇ります。居住域と墓域が複合したこの遺跡は、弥生時代における拠点集落としての性格を色濃く残しており、2017年には国の史跡に指定されました。

遺跡の構成

三雲・井原遺跡は、大きく以下の3つの地区に区分されています。

南小路地区（三雲南小路遺跡）: ここには、伊都国王の墓と目される一辺30メートルにも及ぶ大型の弥生墳丘墓があります。
番上地区: この地区は、大陸との外交交渉の中枢であったと考えられており、大陸系の遺物が多数出土しています。
加賀石地区: 遺跡の最も古い部分にあたり、弥生時代初期の墓域や、弥生前期の集落と墓域が確認されています。

発見の歴史

この遺跡の発見は、江戸時代にまで遡ります。福岡藩士の青柳種信が著した『柳園古器略考』には、文政5年（1822年）に発見された銅鏡や青銅製武器類などの出土品が図示されています。また、天明年間（1781-1788年）には、村境の鑓溝で壺に納められた銅鏡が出土したと記録されています。これらの発見から、三雲・井原遺跡は弥生時代における重要な遺跡として認識されるようになり、戦前から中山平次郎や原田大六らによる調査研究が行われていました。

本格的な発掘調査は、1974年から福岡県教育委員会によって開始され、その後も前原市（現糸島市）教育委員会による調査が継続されました。これらの調査により、遺跡の範囲が南北1500メートル、東西750メートルの約60ヘクタールに及ぶことや、弥生時代前期から古墳時代前期まで長期にわたり営まれた遺跡であることが明らかになりました。

墓域の変遷

墓域では、弥生時代早期から前期にかけて支石墓や甕棺墓が営まれました。特に、加賀石地区では弥生時代前期前半の9基の甕棺墓が確認されています。また、江戸時代に発見された甕棺墓の位置も特定され、そこから金銅四葉座飾や多くの副葬品が納められた2号甕棺が発見されました。この2号甕棺からは、前漢鏡22点、硬玉製勾玉、ガラス勾玉、ガラス璧などが出土しており、これらの副葬品の内容から、この甕棺が弥生時代中期の「王墓」であると位置付けられています。

弥生時代後期には、ヤリミゾ地区で47基の甕棺墓、25基の木棺墓、7基の土坑墓、4基の箱式石棺墓、51基の祭祀土坑が確認されています。これらの墳墓からは、後漢鏡、10000点以上のガラス小玉、紫や黄色の微小玉など、貴重なガラス製品が出土しています。

居住域の変遷

居住域では、加賀石地区で弥生時代前期前半の竪穴建物が検出され、その後古墳時代まで継続して集落が営まれました。遺跡の東南部では、弥生時代中期に3条の大溝が掘削され、集落と墓域を分ける役割を果たしていたと考えられています。番上地区では、弥生時代前期から後期まで継続的に竪穴建物が営まれており、この地区が三雲・井原遺跡における中心地の一つであったと考えられています。この地区からは、弥生土器とともに27点の楽浪系土器が出土しており、大陸との交流があったことを示唆しています。

また、遺跡の中央西側では、方形に巡る可能性のある大溝が確認され、その内部が居館であった可能性も指摘されています。

出土遺物

居住域からは、多種多様な遺物が出土しています。土器では、吉備系や東海系などの列島内の土器に加え、楽浪系土器や三韓系土器といった半島系の土器も多く見られます。青銅器の鋳型も出土していることから、この地で青銅器が生産されていた可能性も示唆されています。鉄器では、鉄斧、刀子、ヤリガンナ、鉄鑿などの農工具や、鉄剣、鉄刀、鉄矛、鉄鏃などの武器が合計250点出土しています。また、国内では希少なファイアンス玉の出土も注目されています。

遺跡の重要性

三雲・井原遺跡は、北部九州地域を代表する拠点集落であり、中国の歴史書『魏志倭人伝』に記述のある「伊都国」の中心的な集落であると考えられています。この遺跡は、弥生時代を通して墓域と居住域が展開し、中期と後期には「王墓」と呼ばれる墳墓が存在します。出土遺物も豊富で、大陸や列島内各地との交流を示す遺物が多数出土しており、弥生時代の政治、経済、文化を知る上で非常に重要な遺跡です。




参考文献

三雲・井原遺跡 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
ブリタニカ国際大百科事典『三雲・井原遺跡』 - コトバンク

関連項目

伊都国
* 三雲南小路遺跡

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