上代特殊仮名遣

上代特殊仮名遣について

上代特殊仮名遣（じょうだいとくしゅかなづかい）とは、奈良時代頃における日本語の特異な仮名の使い分けを指します。この時期の文献、特に『古事記』や『日本書紀』、また『万葉集』などに見られる万葉仮名の利用方法に依存しています。この概念は国語学者の橋本進吉の研究に基づいており、彼の論文「上代の文献に存する特殊の仮名遣と当時の語法」がその名の由来となっています。上代特殊仮名遣は、単に「上代仮名」とも呼ばれています。

概要

上代の文献では、通常の歴史的仮名遣で区別されない音節が2つの異なる万葉仮名によって明確に使い分けられていることが分かっています。これらの音節のうち、甲類と乙類という2つの種類に分類されます。この区別は具体的には、「き」を示す漢字に支・吉・岐・来・棄などが甲類に含まれ、これに対して己・紀・記・忌・氣などが乙類に分類されます。

特に、活用形においても甲乙の区別が見られ、四段活用では連用形にイ段甲類、命令形にはエ段甲類が用いられ、已然形にはエ段乙類、さらに上一段活用ではイ段甲類、上二段活用ではイ段乙類、下二段活用ではエ段乙類が使われることが確認されています。これは、単語ごとの記憶ではなく、何らかの音韻の違いに基づく使い分けであると考えられています。この時期の日本語は、現在認識される音節よりも多くの音韻が存在していたと見られ、少なくとも87音の区別があったと推定されています。

使用例

上代特殊仮名遣による使用例は非常に多岐にわたります。たとえば、『古事記』における動詞の活用では、語幹部分を棒線で示し、特に注意を払わずにひらがな表記におけるカ行を理解しやすく表現しています。また、名詞についても様々な語例が存在し、これらは当時の言語使用を理解する上で重要な資料となります。

現代における上代特殊仮名遣

上代特殊仮名遣が消滅した後、仮名の発展によりこの甲乙の区別を文字上で示すことはなくなりました。しかし、言語学者たちはこの区別を現代に復元するためにさまざまな工夫を凝らしています。具体的には、甲乙を示すために「甲」や「乙」といった明記や、ラテン文字の下付き数字、傍線などが使用されることがあります。

研究史

江戸時代から本格的に行われてきた仮名遣いの研究は、本居宣長の活動によって開かれました。彼は、同じ音の中でも言葉によって使い分けられる仮字があることを指摘しました。この研究はその後、石塚龍麿や橋本進吉などによって発展され、音韻の変遷についての詳細な考察が行われました。

論争と定説化

上代特殊仮名遣の音価や使い分けに関する論争は長きにわたり続いています。特に1970年代以降、松本克己や森重敏などの研究者が新たな見解を示し、古代日本語の母音説に関する反論が数多くなされました。このような議論を通じて、上代特殊仮名遣の研究は深化し続けています。

まとめ

上代特殊仮名遣は、上代文献における特異な音韻の使い分けを明らかにする研究です。その理解が進むことで、古代日本語の音声体系や発音に関する知見が深まり、言語学の発展にも寄与しています。これからも研究は続き、さらに新しい発見があることが期待される分野です。

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