上意下達

上意下達（じょういかたつ）とは

上意下達とは、組織や集団において、上位の者や上層部からの指示、命令、意思などを下位の者や下層部へと伝達し、組織としての意思疎通を図る方法です。これはトップダウンとも呼ばれ、組織運営における基本的なコミュニケーション形式の一つです。反対の概念として、下位の意見を上位に伝える「下意上達（ボトムアップ）」があります。

上意下達の形態

上意下達には、いくつかの形態があります。

文書による伝達: 上位者が発給する公式な文書を通じて、指示や命令が伝えられます。この方法は、特に組織の規模が大きい場合や、重要な決定事項を伝達する際に用いられます。
口頭による伝達: 上位者が直接、言葉で指示や命令を下位者に伝えます。この方法は、迅速な情報伝達が必要な場合や、直接的なコミュニケーションが必要な場合に用いられます。
仲介者を介した伝達: 上位者と下位者の間に仲介者を置き、その仲介者を通して指示や命令を伝えます。この方法は、上位者の権威や秘密性を保ちたい場合や、組織内の複雑な階層構造を円滑にするために用いられます。

特に近代以前の社会では、上位者の権威を保つために、直接的な上意下達ではなく、文書や仲介者を介した伝達が広く行われていました。この際、文書や仲介者の発言は、上位者の発言と同等の重みを持つと考えられ、文書の発給者や発言の仲介者は、高い権力を保持するようになりました。

日本における上意下達の歴史

日本の歴史においても、上意下達は様々な形で用いられてきました。

古代

古代の日本では、公文書として符や牒などが用いられ、上位者の意思が伝えられました。しかし、次第に手続きが簡略化され、下文や奉書などが用いられるようになりました。また、申次（奏者）と呼ばれる連絡役が、上位者と下位者の間を取り持つ役割を果たしました。

近世

近世になると、豊臣秀吉は朱印状を用いて大名へ意思を伝達する際に、具体的な内容を直接記さず、奉行人の名前を記して、その奉行人から具体的な内容を伝える方式を採用しました。これは、奉行人が単なる命令伝達者ではなく、大名を監視・指導する役割を担っていたことを示しています。また、全国統一以前は、徳川家康や毛利輝元などの有力大名を取次として、他の大名との交渉を進めていました。

江戸時代

江戸時代に入ると、徳川幕府は豊臣政権の方針を継承し、将軍による朱印状や黒印状では形式的な文言にとどめ、具体的な内容は老中が作成する奉書を通して伝えられるようになりました。老中は、豊臣政権における奉行人の役割を引き継ぎ、大名からの訴訟や将軍からの命令を全て取り扱うようになりました。この方式は、後世になるほど徹底され、知行宛行や私的な贈物などの例外を除き、全ての命令が老中の奉書を通じて伝達されるようになりました。

老中の権限が拡大するにつれて、老中自身に対する仲介者が必要となり、側用人や御側御用取次が新たに設置されました。しかし、国政の重要事項については、依然として老中が直接取り次ぎの役割を担い、側用人や御側御用取次は、その可否を判断する役割を担っていました。また、側用人や御側御用取次は、将軍の意向を代理する者としての役割も持っていたため、老中が彼らに遠慮することも多かったとされています。

一方、大名や御目見得以上の旗本には、将軍に直接拝謁して言葉を賜ることが許されていましたが、それらは必要最低限の内容にとどまっていました。これは、将軍の言葉が公式の場でのものであり、私的な場での発言とは区別されていたことを示しています。

上意下達の問題点

上意下達は、組織の意思決定を効率的に行う上で重要な役割を果たしますが、一方で以下のような問題点も指摘されています。

下位の意見が反映されにくい: 上位からの指示や命令が一方的に伝達されるため、下位の意見や現場の状況が意思決定に反映されにくいことがあります。
創造性や自主性の欠如: 下位の者が指示されたことだけを実行するようになり、創造性や自主性が失われる可能性があります。
情報伝達の歪み: 仲介者を介して情報が伝達される場合、情報の歪みや伝達の遅延が生じる可能性があります。

まとめ

上意下達は、組織運営において重要な役割を果たす一方で、その運用には注意が必要です。組織の規模や状況に応じて、上意下達と下意上達を適切に組み合わせ、より効果的な意思決定と組織運営を目指すことが求められます。

参考文献

山本博文「上意下達」（『歴史学事典 15 コミュニケーション』（弘文堂、2008年 ISBN 978-4-335-21045-7）

関連項目

トップダウン手法
日本的経営
上下関係

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