上手と下手

上手と下手：多様な意味を持つ言葉

「上手（かみて/うわて/じょうず）」と「下手（しもて/したて/へた）」は、一見単純な言葉ですが、文脈によって様々な意味を持ちます。方向、技量、地位、あるいは人の態度などを表すこの言葉の多様な用法を、具体例を交えながら詳しく見ていきましょう。

舞台における上手と下手

演劇や歌舞伎などの舞台において、「上手（かみて）」は客席から見て右側、「下手（しもて）」は客席から見て左側を指します。これは舞台上の人間から見ての左右とは逆になります。この独特の表現は、英語ではstage left、stage right、フランス語では、かつてのコメディ・フランセーズの建物の位置に由来するcôté cour（中庭側）、côté jardin（庭園側）と表現されます。 舞台での左右を覚えるための語呂合わせとして、「ピアニッシモ」が用いられることもあります。ピアノを弾く位置が下手であることから、覚えやすいでしょう。

座敷や儀式における上手

座敷や儀式などでは、目上の人や上位の人が座る位置を「上手」と言います。一般家庭では、玄関から遠く、床の間に近い席が「上手」とされ、家長などが座ります。

川や風の方向を表す上手

川や風の流れる方向、つまり上流や風上を指す場合にも「上手（うわて）」が使われます。この用法では、「手」が方向を示すニュアンスを持つことが分かります。「上」には起点や重要なものの意味合いが加わります。

能力や地位を表す上手と下手

「上手（うわて）」は、能力や地位が上であることを意味します。「君は僕より一枚上手だ」といった表現がその一例です。一方、「下手（したて）」は、へりくだった態度を表す際に用いられ、「下手に出る」という熟語として使われます。

相撲における上手と下手

相撲では、「上手（うわて）」は相手の腕の外側から廻しを引いた状態、あるいはその状態を作った手を指します。相撲では、一般的に利き手で上手を取ることが有利とされており、「上手を切る」という戦略も存在します。「下手（したて）」は相手の腕の下から廻しをつかむ状態、あるいはその手を指します。

囲碁・将棋における上手と下手

囲碁や将棋では、「上手（うわて）」は強い方、「下手（したて）」は弱い方を指します。ハンデキャップのある対局では、ハンデを与えられた方が「上手」、ハンデを与えていない方が「下手」と呼ばれます。将棋では駒落ち、囲碁では置き碁などがその例です。

技量を表す上手と下手

「上手（じょうず）」は、技術や動作が優れていることを表し、褒め言葉として使われます。ただし、「上手の手から水が漏れる」ということわざがあるように、どんなに優れた人でも失敗は起こり得ることを示唆しています。「お上手」は、お世辞や社交辞令を意味する場合もあります。

「下手（へた）」は、あることを人並みにできない、不器用であることを意味します。

この用法では「手」が技量や腕前を意味し、「上」は高い能力や優れた技量を示します。

江戸時代の囲碁・将棋における上手

江戸時代の囲碁・将棋の段級位制において、「上手」は名人や準名人に次ぐ七段の位を指していました。

まとめ

「上手」と「下手」は、方向、技量、地位、態度など、多様な意味を持つ言葉です。それぞれの文脈を理解することで、より深く言葉の意味を理解することができるでしょう。 この言葉の多義性ゆえに、使用状況を的確に把握することが、誤解を防ぐために重要です。

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